[コラム] 地域共生型再エネの「制度設計」 – Good Echo20事例から読み解く、選ばれる事業の条件

✅ ざっくり言うと
- 🏛 環境省の特設サイト「Good Echo(グッド・エコー)」は、地域共生型の再生可能エネルギー(再エネ)の優良事例を集めたもので、現在は動画10件・記事10件の計20事例が「再エネ優良事例20選」として掲載されています。
- 🔑 成功事例に共通するのは「地域貢献」「丁寧な説明」といった言葉そのものではなく、収益の使途、協議の場、組織、設計変更にまで踏み込んだ具体的な「仕組み」だと考えられます。
- ⚖ 地域共生は理念やマナーの問題ではなく、契約・組織・時間軸の「制度設計」の問題として捉え直すと、実務の勘所が見えてくると考えています。
- 🔻 環境アセスメントの対象規模が引き下げられ規律が強まる今、共生を設計する力は、再エネ事業の競争力に直結していくと思われます。
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はじめに
今回は、地域と共生する再生可能エネルギー事業の「型」について、環境省の特設サイト「Good Echo」に掲載された優良事例を題材に説明していきます。
再エネをめぐっては、特に大規模な太陽光発電(メガソーラー)を中心に、防災や自然環境、景観の観点から各地で懸念の声が上がってきました。
こうした流れの中で、国は規律の強化を進めています。
たとえば環境影響評価法(Environmental Impact Assessment Act)に基づく環境アセスメントの対象となる太陽光発電事業の規模要件について、第1種事業を現行の4万kW(40MW)以上から2万kW(20MW)以上へ引き下げる方向性が、環境省の検討会報告書(案)で示されました(太陽光発電事業等の環境影響評価に関する検討会 報告書(案))。
もっとも、規制という「ムチ」が強まる一方で、国は共生のお手本も示しています。
それが、本稿で取り上げる「Good Echo」です。
規律が強まる局面だからこそ、現に地域に受け入れられている事業がなぜ受け入れられているのか、その構造を読み解く意味は大きいと考えています。
本稿では、Good Echoに掲載された20の事例を一次情報として確認したうえで、成功している事業に共通する「型」を抽出し、さらにその裏返しとして「つまずきやすい案件」の特徴を整理します。
そのうえで、弁護士の立場から、地域共生を契約・組織・時間軸の「制度設計」として捉える視点を提示してみたいと考えています。
Good Echoとは – 環境省が示す「20選」と4つの選定軸
まず、Good Echoがどのようなサイトなのかを確認しておきます。
Good Echoは、地域ごとに異なる具体的な課題に「再エネ」を有力な手段として活用している事例を取り上げる、環境省の特設サイトです(Good Echo 脱炭素地域づくり支援サイト)。再エネの導入に際して、地域への貢献や自然との共生などに目配りしつつ、話し合いと選択を重ねながら地域との共生を進めている事例として位置づけられています。
掲載に当たっての選定ポイントは、次の4つとされています(Good Echo 脱炭素地域づくり支援サイト)。
- 地域への貢献。発電で得られる恩恵(売電収益など)を地域に還元、または地域ごとに具体的な課題の解決に貢献している。
- 事業プロセス。地域とのコミュニケーションを丁寧に行っている。
- 自然との共生。大規模な森林伐採を行わないなど、自然環境の保全に配慮している。
- 景観への配慮。周囲の環境に調和するように、緩衝帯を設けるなど景観に配慮している。
掲載件数は、動画10件と記事10件を合わせた計20件です。
各事例の記事ページのタイトルにも「地域と共生する再エネ優良事例20選」と付されており、環境省自身が「20選」と銘打っています(群馬県 上野村)。
再エネ種別も、太陽光だけでなく、風力、地熱、森林バイオマス、営農型太陽光(ソーラーシェアリング)、水上太陽光と幅広く取り上げられている点が特徴だと考えられます。
「制度設計」という補助線
20事例を読み進めると、「地域への貢献」「丁寧な対話」といった言葉自体はどの事例にも共通して登場します。
しかし、本当に差がつくのは、その言葉が具体的な仕組みに落ちているかどうかだと考えられます。
そこで本稿では、地域共生を次のように捉え直すことを提案します。
すなわち、地域共生型再エネの本質は、発電所を迷惑施設にしないことではなく、地域が抱えていた未解決の課題を、発電事業のキャッシュフローと運営体制で解く「制度設計」にある、という見方です。
この補助線を引くと、優良事例に共通する要素が、いくつかの「型」として見えてきます。以下、5つの型に整理して説明していきます。
成功事例に共通する5つの型
型1. 起点が「脱炭素」ではなく「地域課題」になっている
優良事例の多くは、「脱炭素のために設備を置く」という発想から始まっていません。
先に、跡地、遊休農地、耕作放棄地、獣害、排水、一次産業の担い手不足といった地域側の困りごとがあり、再エネはそれを解く道具として導入されています。
たとえば長野県王滝村は、人口約600人の山間部の村で、かつてのスキーブームを支えた村営スキー場が温暖化やレジャー需要の変化で客足を減らし、ゲレンデの一部が2007年に閉鎖されていました。
2014年の御嶽山噴火もあり、人口減と財政難という厳しい状況の中で、スキー場跡地の活用が村の課題となっていました。
そこに、南向きのゲレンデ斜面を活かした大規模太陽光発電が導入され、2021年11月に出力約2.9MWの発電所として売電を開始しています(長野県 王滝村)。
群馬県上野村は、森林が面積の95%を占める村で、冬の暖房費や特産品のきのこ栽培に使うビニールハウスの維持費の高騰、さらに2019年の台風による停電を経験しました。
これを契機に2020年に「Ueno5つのゼロ宣言」を表明し、未利用の間伐材を活用した小型180kWの木質バイオマス発電や地域マイクログリッドの構築に乗り出しています(群馬県 上野村)。
このほか、北海道中標津町は閉鎖されたゴルフ場を活用して新たな森林伐採を避けながら太陽光発電を導入し(北海道 中標津町)、千葉県匝瑳市は耕作放棄地を市民出資型の営農型太陽光で農地として再生しています(千葉県 匝瑳市)。
いずれも、土地の「過去」をどう扱うかという課題が起点になっている点で共通していると考えられます。
型2. 売電収益を「地域の未来費用」に変換している
第二の型は、売電収益の使い道です。単なる協力金の支払いではなく、地域が先送りしてきた維持費・更新費・担い手育成費に変換されている点が、優良事例の強みになっていると考えられます。
王滝村では、2022年8月に村と事業者が締結した「地域貢献事業に関する基本合意書」に基づき、売電収益の一部を2039年まで毎年村に寄付し、これを原資とする「王滝村奨学金返済支援補助金制度」が設けられました。
U・Iターンして5年以上居住・就業する20〜30代の若者の奨学金返済額の最大7割を補助する制度です(長野県 王滝村)。
発電所が、若者の定住という長年の課題を支える仕組みに接続されている点が注目されます。
青森県つがる市は、売電収入の一部を基金化して農林水産業支援に特化させ、籾殻を工事用の植生シートに活用するなど、農業の課題と発電事業を接続しています(青森県 つがる市)。
大分県杵築市・日出町の風力発電では、新入学児童へのランドセル補助、地元の特色を盛り込んだ環境教育ノートの配布、防災用品の購入支援、奨学金など、子育てや防災に関わる施策へ展開されています(大分県 杵築市、日出町)。
ポイントは、「お金を配った」ではなく、「地域の将来課題に充てる費用に変換した」と読めることだと考えられます。
型3. 行政・地元・事業者の「三者構造」になっている
第三の型は、事業の担い手の構造です。
優良事例では、事業者が単独で進めるのではなく、行政が単なる許認可の窓口を超えて、協議・出資・基金設計・合意形成に深く関わる例が目立ちます。
熊本県合志市では、市・地元企業・事業者が対等に出資する合同会社が設立され、売電収益や配当を農業活力基金に集約し、その使途を毎年の総会で決定する仕組みが採られています(熊本県 合志市)。
埼玉県所沢市では、市・民間・農業法人が連携し、遊休農地を営農型太陽光に転換して発電電力を市の公共施設へ供給しています(埼玉県 所沢市)。
杵築市・日出町の事例では、事業者が両自治体とそれぞれ包括連携協定を締結しています。
サイト上の事業者コメントによれば、2つの自治体と同時期に包括連携協定を締結した意図は、自治体との連携強化にあるとされています(大分県 杵築市、日出町)。
合同会社や基金という「収益還元の器」をつくること、包括連携協定や基本合意書によって地域貢献を一過性で終わらせないこと、これらが共通する強い仕組みだと考えられます。
型4. 自然・景観配慮が「後付け緑化」ではなく計画変更まで踏み込んでいる
第四の型は、自然や景観への配慮の深さです。
優良事例では、配慮が説明文句にとどまらず、配置変更、既存森林の保全、設置ゾーンの限定、湿地の復元、緩衝帯の設置といった、計画変更や維持管理コストの引受けにまで及んでいます。
三重県四日市市の事例は、その典型だと考えられます。
かつて棚田だった68ヘクタールの土地は、バブル期の宅地開発が頓挫して荒廃していましたが、2012年に持ち上がったメガソーラー計画について、三重県環境影響評価条例に基づくおよそ2年間の環境アセスメントを実施したところ、設置予定地の一部に貴重な生態系が含まれることが判明しました。
これを受けて事業者は設計変更に応じ、希少生物がいるエリアの保存と、生物を移植するためのビオトープの新設を事業計画に盛り込みました。
その土地の土と植物だけで8,000平米の湿地帯を復元し、環境アセスメントを含む約5年間の協議を経て2019年に運転を開始しています(三重県 四日市市)。
栃木県那須塩原市では、既存の森林を残して発電所を目立ちにくくし、環境アセスメントで保全対象種を選定したうえで、森林を複数のゾーンで維持管理し野生動物との緩衝地帯としています(栃木県 那須塩原市)。
王滝村でも、幹線道路やキャンプ場からパネルが見えないようにゲレンデの一部ゾーンに設置を限定し、あわせて住宅地の排水問題にも対処しています(長野県 王滝村)。
これらを踏まえると、「自然との共生」とは美しい言葉ではなく、設計変更と維持管理コストを引き受ける覚悟である、という切り口が見えてくると考えられます。
型5. 発電所を「閉じた設備」から「地域の接点」に変えている
第五の型は、発電所と地域の関わり方です。優良事例は、発電所を地域から隔離していません。
教育、観光、視察、研究、農業といった地域活動の接点として、発電所を地域に開いています。
四日市市では、復元されたビオトープに遊歩道が整備され、地元の中学生が生物と自然について学ぶほか、三重大学の研究フィールドとしても活用されています(三重県 四日市市)。
杵築市・日出町では、建設中の現地見学会が学校から人気の社会科見学プログラムへと発展しました(大分県 杵築市、日出町)。
埼玉県所沢市ではブドウやブルーベリーの栽培と観光農園化に接続し(埼玉県 所沢市)、上野村では視察や見学の問い合わせが多く、村の子どもたちが地元の自然の豊かさを再認識するきっかけになっているとされています(群馬県 上野村)。
再エネ設備が、教育・観光・研究・農業・地域ブランドの接点になるほど、住民の側に「自分たちの資産」という感覚が生まれやすくなると考えられます。
裏返しとしての「つまずきやすい案件」
ここまでの5つの型は、そのまま裏返すと、地域に受け入れられにくい案件の特徴になります。
弁護士として相談を受ける立場からも、次のような点は要注意だと考えています。
第一に、土地の条件だけを見て、地域課題を見ていない案件です。
広く安い土地という発想が先に立ち、その土地が地域にとってどういう意味を持つのかという視点を欠くと、共生の入口に立つことが難しくなると思われます。
第二に、協力金は用意しているものの、その使途が地域の将来課題と結びついていない案件です。
一過性の支払いは、地域の維持費・更新費・担い手育成費を支える「未来費用」にはなりにくいと考えられます。
第三に、説明会が一回限りで終わっている案件です。優良事例の多くは、協議の場を継続的に設けています。
第四に、景観や生態系への配慮が事後対応にとどまり、設計変更に踏み込んでいない案件です。
後付けの緑化は、住民の不安を解消する力が弱いと思われます。
第五に、運転開始後に地域と向き合う担い手が見えない案件です。
地域共生の本体は、運転開始前の説明だけでなく、運転開始後も続く関係性の設計にあると考えられます。
実務への示唆 – 共生は「契約・組織・時間軸」の設計
以上の型を、弁護士の視点で実務に引き寄せると、地域共生は突き詰めれば「契約・組織・時間軸」の設計の問題に帰着すると考えています。
まず組織と契約の面では、合同会社や基金といった収益還元の「器」をどう設計するか、包括連携協定や基本合意書をどう位置づけるかが鍵になります。
合志市の対等出資の合同会社や、王滝村の基本合意書、杵築市・日出町の包括連携協定は、いずれも地域貢献を口約束ではなく文書と組織に落とし込んだ例といえます(熊本県 合志市、長野県 王滝村、大分県 杵築市、日出町)。
収益の使途、意思決定の場、合意の更新方法を、どこまで明文化できるかが、共生の持続性を左右すると考えられます。
次に時間軸の面では、優良事例はいずれも短期の着工・運転開始だけをゴールにしていません。
四日市市は約5年間の協議を経て2019年に運転を開始し(三重県 四日市市)、杵築市・日出町はおよそ11年間の対話を経て2025年4月に運転を開始しました(大分県 杵築市、日出町)。
王滝村は2039年までの寄付を約束しています(長野県 王滝村)。
これらは、運転開始前の合意形成だけでなく、運転開始後も続く長期の関係性を、あらかじめ仕組みとして設計していることを示していると考えられます。
そして、こうした設計力は、冒頭で触れた規律強化の流れと表裏一体の関係にあります。
環境アセスメントの対象規模が引き下げられ、より小規模な事業も手続の対象に取り込まれていく中では、計画の初期段階から地域課題・自然環境・合意形成を織り込む力が、事業を前に進める前提条件になっていくと思われます。
報告書(案)でも、コーポレートPPA(Corporate Power Purchase Agreement、電力購入契約)の普及に伴い、環境に配慮した事業であることが事業の競争力につながると指摘されています(太陽光発電事業等の環境影響評価に関する検討会 報告書(案))。
まとめ
今回は、環境省「Good Echo」の20事例を題材に、地域共生型再エネに共通する「型」と、その背後にある「制度設計」という視点について説明しました。
改めて整理すると、優良事例に共通するのは、起点が地域課題にあること、売電収益が地域の未来費用に変換されていること、行政・地元・事業者の三者構造になっていること、自然・景観配慮が計画変更まで踏み込んでいること、そして発電所が地域の接点になっていることの5点だと考えられます。
いずれも、「地域貢献」という言葉ではなく、収益の使途・協議の場・組織・設計変更・維持管理という具体的な仕組みに落ちている点が本質だと思われます。
地域共生とは、再エネを地域の制度設計に組み込むことだと考えています。
規律の強化が進む局面においては、この設計力こそが、事業の受容性と競争力を支える土台になっていくと思われます。
再エネ事業の構想段階にある方や、地域との合意形成に課題を感じている方も多いのではないかと思いますので、本稿が事業設計を考える一助になれば幸いです。
なお、本稿で紹介した事例の内容は、環境省Good Echoの掲載情報に基づくものです。
個別の案件における契約・組織設計や許認可対応については、立地条件や関係法令によって判断が分かれる場面もありますので、具体的な検討に当たっては専門家にご相談いただくことをお勧めします。
