[コラム] 政府メガソーラー対策パッケージを弁護士が解説 – 「既定路線」の本質と7つの法的論点

✅ ざっくり言うと
- 📋 2025年12月23日、政府が「メガソーラー対策パッケージ」を決定、7法令の規制強化を打ち出す
- 🏛️ 2027年度以降の地上設置型事業用太陽光へのFIT/FIP支援「廃止を含めて検討」が最大の焦点
- ⚖️ 世間では「既定路線」「目新しさゼロ」と評されるが、法的には重要な論点が多数潜む
- 🔍 発電事業者として開発に関与してきた弁護士が、現場の実態と法的課題を率直に解説
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はじめに
2025年12月23日、木原稔内閣官房長官は首相官邸で「大規模太陽光発電事業に関する関係閣僚会議」を開催し、「メガソーラー対策パッケージ」を決定しました。
環境破壊や景観問題、住民トラブルが各地で顕在化する中、政府が包括的な規制強化に乗り出した形ですが、報道や業界関係者の反応を見ると、「既定路線」「目新しいものがない」という冷めた評価が目立ちます。
実は私自身、弁護士になる前に発電事業者としてメガソーラー開発に関与してきた経験があります。
実際に現地を視察すると、正直に申し上げて「異様」としか言いようのない光景が広がっていることも少なくありませんでした。
そのような経験を持つ者として、今回の規制強化には中立から賛成寄りの立場です。
これは自己否定ではなく、業界の健全化に必要なプロセスだと考えています。
ただし、「既定路線」だから重要でないというわけではありません。
法律家の視点から見ると、このパッケージには見逃せない法的論点が数多く含まれています。
特に、既存事業者にとっては事業継続に直結する重大な問題が潜んでいます。
今回は、このメガソーラー対策パッケージについて、発電事業者としての実体験と弁護士としての専門知識を踏まえ、詳細に解説していきます。
メガソーラー対策パッケージの全体像
3本柱の構成
今回決定された対策パッケージは、以下の3つの柱から構成されています。
第1の柱:不適切事案に対する法的規制の強化等
- 環境影響評価法・電気事業法に基づく環境影響評価の対象見直し
- 森林法に基づく林地開発許可制度の規律強化
- 種の保存法の在り方検討
- 文化財保護法に関する事務連絡
- 自然公園法に基づく釧路湿原国立公園の区域拡張
- 電気事業法における保安規制の強化
- 太陽光発電システムのサイバーセキュリティ強化
- 景観法の活用促進
- その他、土地利用規制、関係法令の適切な運用、太陽光パネルの廃棄・リサイクル確保
第2の柱:地域の取組との連携強化
- 「再エネ地域共生連絡会議」の設置
- 景観法の活用促進(再掲)
- 文化財保護法に関する事務連絡(再掲)
- 地方公共団体の環境影響評価条例との連携促進
- 「全省庁横断再エネ事業監視体制」の構築
第3の柱:地域共生型への支援の重点化
- 再エネ賦課金を用いたFIT/FIP制度による支援の見直し(2027年度以降の事業用太陽光について廃止を含めて検討)
- 次世代型太陽電池(ペロブスカイト、タンデム型)の開発・導入強化
- 屋根設置等の地域共生が図られた導入支援への重点化
- 望ましい営農型太陽光の明確化
- 国等の再エネ電力調達における対応
- 地域の信頼を得られる責任ある主体への事業集約の促進
関係閣僚会議の経緯
この会議には、木原官房長官を議長として、赤澤経済産業大臣、林総務大臣、鈴木農林水産大臣、金子国土交通大臣、石原環境大臣らが出席しました。
木原官房長官は会議の中で、「太陽光発電事業については、この十数年で急速に拡大し、現在では我が国の発電量の約1割をまかなうまでになりました。
他方、特に大規模な事業については、自然環境、安全、景観などの面について、様々な懸念が生じる事案が一部の地域にみられています」と述べ、再エネ導入における「地域との共生や環境への配慮が大前提」であることを強調しました。
自民党提言との関係
実は、この対策パッケージは、自由民主党の合同部会が2025年12月18日に公表した提言内容にほぼ沿ったものです。
日経BPの記事は、「公表された対策パッケージは、自由民主党の合同部会が12月18日に公表した提言内容に沿ったもので、ほぼ既定路線だったとも言える」と指摘しています。
また、FIP入札の廃止については、すでに12月16日の調達価格等算定委員会で「支援の必要性について検討する」との動きがあり、政策決定のプロセスとしては順次進められてきたものと言えます。
なぜ「既定路線」と言われるのか
業界内では織り込み済みだった
メガソーラーを巡る問題は、ここ数年で急速に社会問題化してきました。
環境破壊、景観悪化、土砂災害リスク、住民トラブルなど、全国各地で懸念の声が上がっていました。
そのため、政府が何らかの規制強化に乗り出すことは、業界内では既に予想されていました。
特に、2012年のFIT(固定価格買取制度:Feed-in Tariff)制度開始以降、太陽光発電の導入が急速に拡大した一方で、適切でない事業も目立つようになっていたためです。
法律家から見た「既定路線」の意味
しかし、「既定路線」であることが、法的に重要でないことを意味するわけではありません。
むしろ、既に政策方向が固まっているからこそ、実務への影響を正確に把握し、対応を準備する必要があります。
特に、以下の点が重要です。
- 改正のスケジュールと施行時期:いつから新しい規制が適用されるのか
- 既存案件への影響:既に認定を受けている案件にも遡及するのか
- 具体的な要件:どのような基準で規制されるのか
- 罰則の内容:違反した場合のペナルティは何か
これらは、事業者にとって事業継続や収益性に直結する極めて実務的な問題です。
法令の規制強化:法的論点
環境影響評価法・電気事業法:アセス対象の拡大
現行制度
現在、環境影響評価法(環境アセス法)では、連系出力40MW以上のメガソーラーすべて、および環境影響の大きい30MW以上の一部のメガソーラーに対して、環境アセスメントが義務化されています。
改正の方向性
対策パッケージでは、「環境影響評価法・電気事業法に基づく環境影響評価の対象となる太陽光発電事業の規模を見直し、事業者における環境配慮の促進を図る」としています。
具体的には、30MW未満の案件にも対象を拡大する方向で検討される可能性があります。
実務への影響
環境アセスメントは、方法書、準備書、評価書の作成、縦覧、意見聴取など、複雑な手続を要します。
手続期間は通常2~3年程度かかるため、対象が拡大されると、中規模案件でも開発期間が大幅に延びることになります。
また、アセスメントの実施には専門のコンサルタントへの委託費用も必要となるため、事業コストも増加します。
加えて、「見直し後には、見直しの考え方等を地方公共団体に周知し、必要な連携を図る」とされており、自治体の環境影響評価条例との連携も進められます。
既に独自の条例で規制を行っている自治体も多く、国の制度改正を契機に、条例の対象範囲も拡大される可能性があります。
森林法:林地開発許可制度の規律強化
改正の内容
森林法については、「許可条件違反に対する罰則、命令に従わない者の公表等、林地開発許可制度の規律を強化する」とされています。
具体的には、改正森林法(2026年4月施行予定)において、以下の措置が講じられます。
- 許可条件違反に対する罰則の新設:3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
- 命令に従わない者の公表制度:都道府県知事が開発行為の中止・原状回復命令を出しても従わない事業者を公表
実務への影響
これまで、林地開発許可の条件違反に対する実効的な制裁措置が不十分だったため、許可後に条件を守らない事業者が存在していました。
今回の罰則新設により、刑事責任を問われるリスクが生じることになります。
また、公表制度は、事業者にとって信用毀損のリスクとなります。
特に、上場企業や金融機関からの融資を受けている事業者にとっては、コンプライアンス上の重大な問題となり得ます。
なお、林野庁は2023年4月から、太陽光発電設備の設置を目的とする林地開発について、規制対象となる開発規模を1ヘクタール超から0.5ヘクタール超に引き下げています。今回の罰則強化と併せて、小規模案件への規制も強化されている点に注意が必要です。
電気事業法:保安規制の強化
改正の内容
電気事業法については、「太陽光発電設備の設計不備による事故を防止するため、10kW 以上の全ての太陽電池発電設備について、土木建築の専門性を有する第三者機関が、工事前に構造に関する技術基準への適合性を確認する仕組みを設ける」とされています。
これは、令和8年(2026年)通常国会での法案提出を目指すとされています。
実務への影響
現在、出力10kW以上2000kW未満の事業用太陽光については、2023年から使用前自己確認制度が義務化されていますが、新制度では「工事前に第三者機関によって適合性を審査する仕組み」に変更されます。
これにより、10kW以上の全ての太陽光設備が対象となるため、特に低圧事業用太陽光(10kW以上50kW未満)の案件数が膨大であることから、審査件数が急増することが予想されます。
日経BPの記事によれば、「発電事業者にとって新たな負担になる一方で、太陽光発電所の安全性や適合性を審査するニーズが急増して新たなビジネスに発展する可能性もある」と指摘されています。
事業者側から見ると、審査費用と審査期間の増加が避けられません。
特に、第三者機関の審査体制が整うまでの間は、審査待ちによる工事遅延も懸念されます。
種の保存法、文化財保護法、自然公園法、景観法
種の保存法
希少種の保全上重要な生息・生育地を保全するため、生息地等保護区の設定を推進するとともに、「希少種保全に影響を与え得る開発行為について、事業者等に対応を求める際の実効性を担保するための措置等について検討する」とされています(2026年夏頃の検討会取りまとめ結果を踏まえて制度改正予定)。
文化財保護法
天然記念物への影響確認が不十分なまま開発が進むことを防ぐため、「自治体が事業者に対して工事による天然記念物への影響の確認に係る助言を行う際の留意事項を整理し、自治体へ事務連絡を発出する」とされています(2025年度中に実施予定)。
自然公園法
釧路湿原国立公園については、「湿原環境等の保全強化を図るため、国立公園としての資質を有する近隣地域について公園区域を拡張し、公園区域内の開発を適切に規制する」とされています(2026年度中に区域拡張を目指す)。
景観法
市町村等が明確な景観形成基準を設けた景観計画を策定できるよう、「景観法運用指針の改正及び景観法活用マニュアルの作成、公表を行う」とされています(2026年春頃までに実施予定)。
実務への影響
これらの法令は、それぞれ異なる観点から太陽光発電事業を規制しますが、共通しているのは「事業の初期段階での影響評価と自治体との調整」が重要になる点です。
特に、景観法については、これまで自治体によって運用にばらつきがありましたが、今回の運用指針改正により、全国的に景観規制が強化される可能性があります。
その他の法令:土壌汚染対策法、盛土規制法等
対策パッケージでは、「現在すでに開発に着手されたものであっても、法令が遵守され、地域共生が確保されるよう、森林法、文化財保護法、土壌汚染対策法、盛土規制法を始めとする各種の関係法令の規制を総動員し、厳格に対応する」とされています。
これは、既に開発に着手している案件であっても、各種法令違反があれば厳格に対応するという強いメッセージです。
最大の焦点:FIT/FIP制度の2027年度廃止
「廃止を含めて検討」の曖昧さ
対策パッケージの中で、最も注目されているのが、「2027年度以降の事業用太陽光(地上設置)については、技術の進展によるコスト低減の状況や、太陽光発電に係る課題や特性を踏まえた支援策の重点化の方向性を念頭に、支援の廃止を含めて検討する」という文言です。
この文言には、以下の点で曖昧さが残ります。
- 「廃止を含めて検討」とは、廃止を前提としているのか、それとも廃止も選択肢の一つなのか
報道では「廃止する方向で議論が進んでいる」とされていますが、パッケージの文言自体は「検討」に留まっています。
- 「2027年度以降の事業用太陽光」とは、新規案件のみを指すのか、既認定案件も含むのか
この点について、日経BPの記事は「支援策の廃止が新規案件に限定したものなのか、既認定の案件に遡るのかは明確ではないが、議論の流れから推測すると新たに認定して支援しないとの趣旨と考えられる」と分析しています。
また、パッケージには「関係法令違反を覚知した FIT/FIP 認定事業については、速やかに交付金一時停止措置を講じる等、引き続き、FIT/FIP 制度を厳格に運用する」との文言があることから、既認定案件のうち少なくとも稼働済み案件については引き続き買取による支援が継続されると考えられます。
既認定案件への影響と法的予見可能性
仮に2027年度以降の新規案件のみが対象であるとしても、既認定案件にとっても重要な問題があります。
法令違反による交付金停止のリスク
パッケージでは「関係法令違反を覚知した FIT/FIP 認定事業については、速やかに交付金一時停止措置を講じる」とされています。
前述の通り、森林法違反には罰則が科されるようになり、その他の法令についても「厳格に対応する」とされています。
つまり、既に認定を受けて稼働している案件であっても、何らかの法令違反が発覚すれば、買取が停止されるリスクがあるということです。
法的予見可能性の問題
FIT/FIP制度は、事業者に対して一定期間の買取価格を保証することで、再エネ投資を促進する制度です。
事業者は、この保証を前提に多額の投資を行い、長期的な事業計画を立てています。
しかし、制度の途中で支援が打ち切られたり、厳格な法令遵守が求められるようになったりすると、当初の事業計画が成り立たなくなる可能性があります。
これは、法的安定性や予見可能性の観点から、重要な問題です。
もちろん、法令を遵守することは当然の義務ですが、どの程度の違反で買取停止となるのか、その基準が明確でなければ、事業者は適切な対応ができません。
事業者が直面するリスク
FIT/FIP支援の廃止(または縮小)により、事業者は以下のようなリスクに直面します。
- 新規投資の抑制:2027年度以降の新規案件では、FIT/FIPによる収益保証がなくなるため、投資回収の見通しが立ちにくくなります。
- 既存案件の再評価:既認定案件であっても、法令遵守の徹底が求められるため、コンプライアンス体制の見直しが必要です。
- 金融機関の対応:プロジェクトファイナンスを組んでいる案件では、買取価格の保証が前提となっているため、制度変更の影響を金融機関と協議する必要があります。
再エネ地域共生連絡会議と国・自治体連携
新設の意義
対策パッケージでは、「太陽光発電事業への適切な法的規制の実行にあたって、国と地方自治体との緊密な連携を図る観点から、地方三団体も交えた新たな連携枠組みを構築」するとして、「再エネ地域共生連絡会議」を設置することが決まりました(2025年度内に立ち上げを目指す)。
この会議では、以下のような情報共有が行われます。
- 関係法令の総点検結果や対応方針
- 条例、法定外税
- 事業を開始した事案に対する実効的な取組例
- 地域に裨益する仕組みの構築事例
- 自治体における先進的な取組
再エネGメンの拡充
これまで、「関係法令違反通報システム」や「再エネGメン」は、FIT/FIP認定事業のみを対象としていましたが、今回のパッケージでは、「非 FIT/非 FIP 事業も対象に追加し、我が国の太陽光発電全体において、各関係法令が確実に遵守される体制を構築する」とされています(2026年度予算案に関連予算を計上し、2026年度より実施予定)。
これにより、FIT/FIPの認定を受けていない自家消費型の太陽光発電設備についても、法令遵守が監視されることになります。
先進自治体の取組
既に、独自の条例や規制を導入している自治体も多く存在します。例えば、以下のような取組があります。
- 環境影響評価条例による規制:国のアセス対象(40MW以上)よりも小さい規模で環境アセスを義務化
- 景観条例による規制:景観保全地区でのメガソーラー建設を制限
- 法定外税の導入:メガソーラー事業者に対して独自の課税
- 開発許可の厳格化:都市計画法や森林法に基づく許可を厳格に運用
今回の国の動きを受けて、こうした自治体の取組がさらに広がることが予想されます。
日弁連意見書との比較:弁護士会が求める更なる規制
日弁連の意見書(2025年8月21日)
日本弁護士連合会(日弁連)は、2025年8月21日付で「メガソーラー及び大規模風力発電所の建設に伴う、災害の発生、自然環境・景観の破壊及び生活環境への被害を防止するために、更なる法改正等による対応を求める意見書」を公表しています。
この意見書では、政府が今回のパッケージで打ち出した内容よりも、さらに踏み込んだ規制を求めています。
(なお、日弁連がこのような政治的なメッセージを出すことについては、私は非常に懐疑的です。
日弁連は、弁護士が業務を行う上では加入が必須となる強制加入団体です。
そのメンバーの中には様々な考えを持つ人がいます。
今回の論点で言えば、メガソーラー賛成派の方も反対派の方もいらっしゃるはずです。
上層部がメガソーラー反対派だからといって、日弁連の名義でこうした意見書を出すことについては正直理解しかねます。)
日弁連が求める主な内容
住民参加手続の実効性強化
再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)で義務付けられた周辺地域の住民に対する説明会について、「住民の不安を解消し、住民意見を事業へ十分に反映し得るものとなるよう」、説明会及び事前周知措置実施ガイドラインの改正を求めています。
具体的には、幅広い住民参加を可能とし、専門家の同席を明文で認めるなどの措置を求めています。また、事業者が住民と協議する制度も設けられるべきとしています。
FIT/FIP認定の規制強化
「利益追求を優先し、法令を遵守せず、自然環境、生活環境への影響、施設の安全性等に配慮しない事業者の参入や乱開発を防止するため」、FIT/FIP認定IDの取得及び発電設備の転売に要件を設けて規制すべきとしています。
また、「過去に違法行為をした事業者が、違法行為を繰り返すことを防ぐため」、FIT/FIP認定要件に欠格要件を設けるべきとしています。
保安林指定解除の厳格化
再生可能エネルギー事業のために保安林の指定解除については厳格な審査を維持すべきであり、要件を緩和することに反対するとしています。
環境影響評価法の改正
環境影響評価をより実効化するために、環境影響評価図書の継続公開、累積的影響の評価、対象事業の拡大、不服申立て制度の導入等の法改正を迅速に進めるべきとしています。
特に、政府が環境アセスの手続緩和を行うことに反対する姿勢を明確にしています。
政府案との相違点
日弁連の意見書と比較すると、政府の対策パッケージは以下の点で不十分と言えます。
- 住民参加手続:パッケージでは具体的な住民参加手続の強化には触れていません。
- 事業者の欠格要件:過去に違法行為をした事業者を排除する仕組みは明記されていません。
- 環境アセスの実効性:対象範囲の拡大は検討されていますが、手続の実効性強化(図書の継続公開、累積的影響評価、不服申立て制度等)には触れていません。
これらの点は、今後の法改正議論で焦点になる可能性があります。
実務上の影響と対応策
事業者向けチェックリスト
既に太陽光発電事業を行っている事業者、またはこれから参入を検討している事業者は、以下の点を確認すべきです。
既存案件(既にFIT/FIP認定を受けている案件)
□ 関係法令(環境影響評価法、森林法、電気事業法、文化財保護法、景観法等)の遵守状況を再確認
□ 林地開発許可の許可条件を遵守しているか(特に森林法関連)
□ 技術基準への適合性(電気事業法)を第三者機関に確認してもらう準備
□ 周辺住民との関係が良好か、未解決のトラブルはないか
□ 環境モニタリングを適切に実施しているか
□ 廃棄・リサイクル計画は適切に準備されているか
新規案件(2027年度以降の開発を検討している案件)
□ FIT/FIP支援が廃止される可能性を前提に、事業性を再評価
□ 自家消費型、屋根設置型など、地域共生型の導入形態を検討
□ ペロブスカイト太陽電池等の次世代技術の活用を検討
□ 環境アセスメントの対象拡大を前提に、手続期間とコストを見込む
□ 第三者機関による事前審査の費用と期間を見込む
□ 自治体の条例、景観計画等を事前に確認
□ 地域住民との丁寧な対話の場を設ける
自治体の対応
自治体にとっても、今回のパッケージは重要な意味を持ちます。
再エネ地域共生連絡会議への参加
国が設置する「再エネ地域共生連絡会議」を通じて、先進事例や効果的な規制手法を学ぶことができます。
他の自治体の取組を参考に、独自の条例や規制を検討することが可能です。
ポジティブゾーニングの活用
地球温暖化対策推進法に基づく「促進区域」の設定により、再エネ導入を促進するエリアを明確にすることができます。
逆に、保全すべきエリアを明確にすることで、不適切な開発を防ぐことも可能です。
景観法の活用
今回のパッケージでは、景観法運用指針の改正及び景観法活用マニュアルの作成・公表が予定されています(2026年春頃まで)。
これを活用し、景観計画に明確な景観形成基準を設けることで、メガソーラーの設置を適切に規制できます。
条例の制定・改正
既に独自の条例を持つ自治体も多いですが、今回の国の動きを契機に、条例の見直しや新たな規制の導入を検討する好機です。
住民の権利保護
住民にとっても、今回のパッケージは権利保護の強化につながる可能性があります。
環境アセスメントへの参加
環境アセスメントの対象が拡大されれば、より多くの案件について、方法書・準備書・評価書への意見提出が可能になります。
景観計画に基づく規制
自治体が景観計画を策定すれば、景観を損なう開発に対して、住民が意見を述べる機会が増えます。
通報システムの活用
「関係法令違反通報システム」や「再エネGメン」が非FIT/非FIP事業にも拡大されるため、法令違反の疑いがある案件を通報することができます。
法的手段の検討
どうしても問題のある案件については、弁護士に相談し、差止訴訟や損害賠償請求などの法的手段を検討することも可能です。
ただし、訴訟は時間とコストがかかるため、まずは自治体や国の制度を活用することが現実的です。
今後のスケジュールと展望
法改正のスケジュール
対策パッケージに記載された主な施策のスケジュールは以下の通りです。
2025年度中
- 文化財保護法に関する事務連絡の発出
- 再エネ地域共生連絡会議の立ち上げ
- FIT/FIP制度に関する方針決定(2027年度以降の支援の廃止を含めた検討)
- 次世代型太陽電池(ペロブスカイト)に関する需要家向け事前調査等の支援
- 地域共生型太陽光発電の導入支援重点化の方針決定
2026年春頃
- 景観法運用指針の改正及び景観法活用マニュアルの作成・公表
2026年4月
- 改正森林法の施行(林地開発許可制度の規律強化)
2026年通常国会
- 環境影響評価法施行令等の改正(次期通常国会中に検討結果を取りまとめ)
- 電気事業法の改正法案提出(第三者機関による事前審査制度の創設)
2026年夏頃
- 種の保存法に関する検討会取りまとめ(必要な制度改正の検討)
2026年度中
- 釧路湿原国立公園の区域拡張
- 全省庁横断再エネ事業監視体制の構築・実施開始
2027年3月頃
- 環境配慮契約法基本方針の変更(法令違反施設からの電力調達を避ける規定)
2027年度
- 環境アセス対象拡大後の制度運用開始(時期は法改正の進捗による)
- ペロブスカイト太陽電池の実証支援強化
- タンデム型太陽電池への開発支援
- 地方公共団体のペロブスカイト太陽電池導入支援(地方財政措置)
2028年度
- 工場等における屋根への太陽光発電設備の設置状況等の報告開始(2027年4月省令施行)
今後の展望
今回の対策パッケージは、メガソーラーに関する包括的な規制強化の第一歩と言えます。しかし、実際の効果は、法改正の内容と運用次第です。
地域共生型への転換が加速
2027年度以降、地上設置型の事業用太陽光へのFIT/FIP支援が廃止(または縮小)されれば、事業者は屋根設置型、自家消費型、営農型など、地域共生型の導入形態にシフトせざるを得なくなります。
また、ペロブスカイト太陽電池などの次世代技術への支援が強化されるため、技術革新も促進されると期待されます。
自治体の役割が重要に
再エネ地域共生連絡会議の設置により、国と自治体の連携が強化されます。
自治体が独自の条例や景観計画を活用し、地域の実情に応じた規制を行うことが、より重要になります。
既存事業者のコンプライアンスが問われる
既認定案件であっても、関係法令違反があれば買取停止のリスクがあります。
事業者は、コンプライアンス体制を再構築し、法令遵守を徹底する必要があります。
訴訟リスクの増大
規制が強化される一方で、既存の案件に対して住民が訴訟を提起するケースも増える可能性があります。
事業者は、法的リスクを適切に評価し、必要に応じて弁護士に相談すべきです。
まとめ
2025年12月23日に政府が決定した「メガソーラー対策パッケージ」は、世間では「既定路線」「目新しさゼロ」と評されていますが、法律実務の観点から見ると、重要な論点が数多く含まれています。
法令の規制強化、2027年度以降のFIT/FIP支援の廃止検討、再エネ地域共生連絡会議の設置など、事業者にとっては事業継続や収益性に直結する重大な変更です。
私自身、発電事業者としてメガソーラー開発に関与してきた経験から、現場の実態を知っています。
環境破壊、景観悪化、住民トラブルなど、解決すべき問題は多く存在します。
今回の規制強化は、業界の健全化に向けた必要なプロセスだと考えています。
ただし、規制強化だけでは不十分です。
また、規制と支援のバランスも重要です。
地域との共生を図り、環境に配慮した太陽光発電事業は、積極的に支援されるべきです。
屋根設置型、自家消費型、次世代技術の活用など、望ましい導入形態への支援を重点化することで、再エネ導入と地域共生の両立が可能になります。
今後、法改正の具体的な内容が明らかになるにつれて、実務への影響もより明確になってきます。
事業者、自治体、住民それぞれが、自らの立場で適切な対応を取ることが求められます。
弁護士として、また発電事業に関与してきた者として、今後もこの問題を注視し、適切な情報提供と法的支援を行っていきたいと考えています。
