[コラム] 低圧太陽光発電の法務実務 – 押さえておくべき開発・セカンダリー取引の最新動向

✅ ざっくり言うと
📌 低圧太陽光(10-50kW)は件数ベースで全FIT認定の8割超を占め、2024年11月から法令違反時の交付金停止措置が開始されました
📌 農地法・森林法・自治体条例の違反は交付金停止の対象となり、セカンダリー取引では法令遵守状況の確認が最優先事項です
📌 2026年度から低圧リソースの需給調整市場(VPP)参入が可能になり、蓄電池併設による新たな収益機会が広がります
📌 セカンダリー市場では表明保証・補償条項の設計が重要で、交付金停止リスクを適切に評価して売買契約に反映させる必要があります
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はじめに
今回は、低圧太陽光発電(10kW以上50kW未満)の開発・セカンダリー取引における法務実務について、2024年から2026年にかけての最新制度改正を中心に説明していきます。
2024年4月に施行された改正再生可能エネルギー特別措置法(再エネ特措法)により、関係法令違反が確認された太陽光発電事業に対してFIT/FIP交付金の一時停止措置が導入され、2024年11月25日には初の停止事例(19件)が公表されました。
この措置により、法令遵守の重要性は一層高まり、弁護士による法務デューデリジェンス(DD)の役割が極めて重要になっていると考えられます。
また、低圧太陽光は全FIT認定容量の約32%(容量ベース)、件数では8割以上を占めており、セカンダリー市場は年間数百億円規模との民間推計もあります。
さらに2026年度からは低圧リソースの需給調整市場(VPP)参入が可能になるなど、新たなビジネス機会が生まれています。
本記事では、低圧太陽光に特有の法務論点を、高圧・特別高圧との制度上の違いを明示しながら、実務に必要な数値データと出典を示して解説していきます。
低圧太陽光発電市場の基礎知識
低圧・高圧・特別高圧の定義と制度上の違い
太陽光発電設備は、電気事業法に基づき出力規模によって以下の3区分に分類されます。
- 低圧: 10kW以上50kW未満(本記事の主な対象)
- 高圧: 50kW以上2,000kW未満
- 特別高圧: 2,000kW以上
この区分は単なる規模の違いではなく、適用される法規制や事業環境が大きく異なるため、実務上極めて重要な意味を持ちます。
低圧・高圧・特別高圧の制度比較表
以下の表は、低圧と高圧・特別高圧の主な制度上の違いを整理したものです。
| 項目 | 低圧(10-50kW) | 高圧(50-2,000kW) | 特別高圧(2,000kW超) |
|---|---|---|---|
| FIT/FIP選択 | 2025年度はFIT選択可 | 2026年度以降FIP移行の方向性(検討中) | FIP/入札制 |
| 2025年度FIT価格 | 10円/kWh | 8.9円/kWh(250kW未満) | 入札制 |
| 系統連系費用 | 数十万~数百万円 | 数百万~数千万円 | 数千万円以上 |
| 環境アセスメント | 不要 | 原則不要 | 規模により必要 |
| 保安規制 | 小規模事業用電気工作物 | 自家用電気工作物 | 自家用電気工作物 |
| 出力制御 | 無制限無補償(2015/1/26以降申込) | 無制限無補償 | 無制限無補償 |
| 定期点検 | 4年に1回以上 | 年次点検等 | 年次点検等 |
(出典: 資源エネルギー庁「FIT/FIPガイドブック2025」、電気事業法)
この表から明らかなように、低圧は高圧・特別高圧と比較して、初期投資額が小さく、規制も比較的緩やかであることが分かります。そのため、個人投資家や中小企業にとって参入しやすい特徴があると考えられます。
低圧市場の規模と投資動向
低圧太陽光市場の規模については、以下のデータが示されています。
- 容量ベース: 全FIT認定容量の約32%
- 件数ベース: 全FIT認定の8割以上を低圧が占める
- セカンダリー市場: 年間数百億円規模との民間調査機関推計
低圧は初期投資額が比較的小規模(数百万円~数千万円)で、個人投資家や中小企業にも参入しやすい特徴があります。一方、高圧・特別高圧は数億円規模の投資が必要で、機関投資家や事業会社が主な担い手となります。
特にセカンダリー市場においては、低圧案件の取引が活発化しており、今後も市場の拡大が期待されています。
2024-2026年度の重要制度改正
交付金停止措置の導入(2024年4月施行、11月初適用)
2024年4月1日に施行された改正再エネ特措法により、関係法令違反が確認された太陽光発電事業に対してFIT/FIP交付金の一時停止措置が導入されました。
この制度改正は、太陽光発電事業における法令遵守の重要性を劇的に高めたと考えられます。
- 初適用: 2024年11月25日、19件の太陽光発電事業に対して交付金一時停止
- 対象法令: 農地法、森林法、自治体条例、電気事業法等
- 影響: 違反が確認されると、是正されるまで交付金が停止
この措置により、セカンダリー取引におけるデューデリジェンス(DD)の重要性が一層高まりました。法令遵守状況の確認は、もはや任意ではなく必須の法務実務となっています。
実務上、特に注意が必要なのは以下の点です。
- 農地法上の転用許可の有無
- 森林法上の林地開発許可の有無
- 自治体条例の遵守状況(住民説明会の開催、離隔距離の確保等)
- 事業計画認定時の添付書類と実態の整合性
2025年度FIT認定申請期限と買取価格
2025年度のFIT認定に関する重要な期限と価格は以下のとおりです。
- 申請期限: 2025年10月10日(金)17:00(10kW以上50kW未満)
- 買取価格: 10円/kWh(地上設置低圧)
- 高圧との比較: 高圧250kW未満は8.9円/kWh
この期限を過ぎて申請した場合、翌年度の価格が適用されるため、事業収支に大きな影響を与える可能性があります。
開発事業者にとっては、この期限を遵守することが極めて重要です。
また、低圧の買取価格10円/kWhは、高圧の8.9円/kWhと比較してやや高く設定されており、小規模事業者の参入を促進する意図があると思われます。
初期投資支援スキームの導入(2025年10月開始)
住宅用太陽光(10kW未満)に蓄電池併設を条件とした初期投資支援スキームが導入されます。
- 対象: 10kW未満の住宅用太陽光+蓄電池
- 買取価格: 初期4年間は24円/kWh、5年目以降は8.3円/kWh
- 開始時期: 2025年10月
- 目的: 蓄電池の普及促進により、再エネの系統安定化を図る
このスキームは、10kW未満の住宅用が対象であるため、本記事で主に扱う低圧事業用(10-50kW)とは異なりますが、蓄電池併設モデルの普及という点で、今後の低圧VPP市場の展開にも影響を与える可能性があると考えられます。
低圧VPP市場開放(2026年度開始)
2026年度から、低圧リソース(10-50kW)の需給調整市場への参入が可能になります。
これは低圧太陽光事業にとって、新たな収益機会を意味する重要な制度改正です。
- 開始時期: 2026年度
- 対象: 低圧太陽光+蓄電池のVPPリソース
- 参入方法: アグリゲーター経由で需給調整市場に参加
- 蓄電池費用目安: 50kWh規模で750万円~1,000万円程度
VPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)とは、分散する小規模な発電設備や蓄電池をIoT技術で束ね、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組みです。
低圧太陽光事業者にとっては、FIT売電収入に加えて、需給調整市場からの収入が得られる可能性があり、事業性の向上が期待されます。
ただし、蓄電池の初期投資額が高額であるため、投資回収期間の慎重な検討が必要です。
50kW以上のFIP移行に関する議論
政府は2026年度以降、50kW以上の太陽光をFIP(Feed-in Premium、フィードインプレミアム)へ移行する方向で検討を進めています。
ただし、これは正式決定ではなく、低圧(10-50kW)は当面FITを選択可能な見込みです。
FIPとFITの主な違いは以下のとおりです。
- FIT: 固定価格での全量買取
- FIP: 市場価格にプレミアムを上乗せして買取
FIPは市場価格と連動するため、事業者にとっては収入の変動リスクが増加しますが、市場価格が高い時には収入が増える可能性もあります。
低圧事業者にとっては、当面FITを選択できる見込みであることは、安定した事業運営を継続できるという点で重要な意味を持ちます。
(出典: 経済産業省「FIP制度に関する政策措置について」資料)
開発段階の法務実務
事業計画認定の法的要件
FIT/FIP制度の適用を受けるには、再エネ特措法に基づく事業計画認定が必要です。
事業計画認定の主な要件は以下のとおりです。
- 設備仕様: 太陽光パネル、パワーコンディショナー等の仕様
- 保守点検計画: 4年に1回以上の定期点検
- 地域との共生: 周辺環境への配慮、住民説明等
- 関係法令遵守: 農地法、森林法、自治体条例等の遵守
特に2024年11月から交付金停止措置が導入されたことで、関係法令遵守の重要性が著しく高まりました。事業計画認定時に提出した書類と実態が異なる場合、交付金停止の対象となる可能性があります。
また、定期点検義務については、低圧は4年に1回以上とされていますが、高圧・特別高圧では年次点検が求められるなど、規模によって要件が異なります。
(出典: 再エネ特措法施行規則、事業計画策定ガイドライン)
土地関連法務の実務
太陽光発電事業の開発において、土地関連の法的問題は最も複雑かつ重要な論点の一つです。特に交付金停止措置の対象となる法令として、農地法と森林法が明示されているため、これらの法令遵守は極めて重要です。
農地転用許可(農地法第4条・第5条)
農地に太陽光発電設備を設置する場合、農地法に基づく転用許可が必要です。
- 許可主体: 都道府県知事または農林水産大臣(4ヘクタール超の場合)
- 標準処理期間: 約2~4か月
- 手続: 農地法第4条(自己転用)または第5条(権利移転を伴う転用)
農地は、その農業生産力や地域における位置関係により、以下のように区分されます。
農地区分と転用可否
| 農地区分 | 転用可否 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 甲種農地 | 原則不許可 | 特に良好な営農条件を備えた農地 |
| 第1種農地 | 原則不許可 | 営農型太陽光(ソーラーシェアリング)は一時転用3年間可 |
| 第2種農地 | 代替地がない場合許可 | 市街地近郊の農地 |
| 第3種農地 | 原則許可 | 市街地の区域内または市街地化の傾向が著しい区域内の農地 |
実務上、第1種農地での営農型太陽光(ソーラーシェアリング)は、一時転用許可(通常3年間)を取得し、営農を継続することが条件となります。営農を放棄した場合、許可が取り消され、交付金停止の対象となる可能性があります。
また、農地転用許可の標準処理期間は約2~4か月とされていますが、地域や案件の複雑さによって異なるため、余裕を持ったスケジュール設定が必要です。
林地開発許可(森林法)
森林に太陽光発電設備を設置する場合、森林法に基づく林地開発許可が必要です。
- 対象: 1ヘクタール超の森林の開発
- 許可基準: 防災、水害防止、環境保全の観点から審査
- 許可主体: 都道府県知事
林地開発許可の審査では、特に以下の点が重視されます。
- 土砂の流出または崩壊の防止
- 水害の防止
- 水の確保
- 環境の保全
森林は水源涵養や土砂災害防止などの公益的機能を有するため、開発に対する規制は農地よりも厳格である場合が多いと考えられます。
自治体条例
多くの自治体が独自の太陽光発電設備設置条例を制定しています。これらの条例は、地域の実情に応じて、国の法令よりも厳しい規制を設けている場合があります。
典型的な規制内容
- 離隔距離: 住宅や道路から50m以上の離隔距離を確保
- 住民説明会: 近隣住民への事前説明会の開催義務
- 景観保全: 景観条例による設置制限
- 届出義務: 設置前の届出や許可取得
自治体条例違反は、交付金停止措置の対象となることが明示されているため、開発前に必ず当該自治体の条例を確認し、遵守することが必要です。
実務上、自治体条例は頻繁に改正されるため、最新の情報を確認することが重要です。また、条例の解釈について不明な点がある場合は、事前に自治体の担当窓口に相談することをお勧めします。
土地契約の実務
太陽光発電事業のための土地利用契約には、主に以下の3つの形態があります。
賃貸借契約
最も一般的と考えられる土地利用形態です。
契約条件の例
- 契約期間: 20~30年(FIT期間に合わせて設定)
- 賃料水準: 固定資産税評価額の2~3%程度が目安
- 賃料改定: 5年ごとに協議による改定条項を設ける場合が多い
- 原状回復義務: 契約終了時の設備撤去・原状回復義務
- 中途解約: 事業者側からの中途解約条項の有無
- 担保提供: 金融機関への土地賃借権の担保提供承諾
実務上、賃貸借契約では原状回復費用の負担が問題となることが多いため、契約締結時に原状回復の範囲と費用負担を明確にしておくことが重要です。また、原状回復費用の積立てを契約条件とする場合もあります。
売買契約
土地を購入する形態です。
契約条件の例
- 売買代金: 時価または近隣取引事例を参考に決定
- 契約不適合責任: 土地の瑕疵に関する売主の責任範囲と期間
- 停止条件: FIT認定取得、系統連系承諾等を停止条件とする場合が多い
- 所有権移転時期: 代金決済時または条件成就時
売買契約の場合、初期投資額は増加しますが、長期的には賃料負担がなくなるため、事業収支が改善する可能性があります。
ただし、FIT期間終了後の土地利用についても検討が必要です。
地上権設定契約
土地に地上権を設定する形態です。
契約条件の例
- 設定期間: 20~30年
- 地代: 賃貸借契約と同程度
- 対抗力: 登記により第三者対抗要件を具備
- 譲渡担保: 金融機関への地上権の譲渡担保設定が可能
地上権は物権であり、登記により第三者に対抗できるため、賃借権よりも権利関係が安定します。金融機関からの融資を受ける場合、地上権設定が条件となることもあります。
系統連系契約の法的論点
太陽光発電設備を電力系統に接続するためには、一般送配電事業者との系統連系契約が必要です。
接続義務と工事負担金
電気事業法に基づき、一般送配電事業者には接続義務が課されています。ただし、接続のための工事費用は発電事業者が負担します。
工事負担金の目安
- 低圧: 数十万円~数百万円
- 高圧: 数百万円~数千万円
- 特別高圧: 数千万円以上
工事負担金は、接続する系統の状況(容量、距離等)により大きく異なります。開発段階で一般送配電事業者に事前相談を行い、概算費用を把握することが重要です。
出力制御ルール
再エネの大量導入に伴い、電力需要が少ない時期には出力制御が実施される場合があります。
出力制御のルール
- 2015年1月26日以降の接続申込: 無制限無補償
- 2015年1月25日以前の接続申込: 年間360時間または30日までの出力制御(補償なし)
九州エリアの出力制御実績
2024年度の九州エリアの出力制御率は約6.1~6.2%との見通しが示されています。
実績としては、年間を通じて複数回の出力制御が実施されており、事業収支に一定の影響を与えています。
出力制御は、低圧・高圧・特別高圧を問わず、接続申込日によって適用されるルールが決まります。
セカンダリー取引においては、対象案件の接続申込日を確認し、出力制御リスクを適切に評価することが重要です。
系統連系の時期と遅延リスク
系統連系工事の完了時期は、一般送配電事業者の工事スケジュールに依存します。工事の遅延により、FIT認定の失効や、予定していた年度の買取価格が適用されないリスクがあります。
契約上、工事遅延による損害賠償条項を設けることは困難な場合が多いため、余裕を持った開発スケジュールを設定することが重要です。
EPC契約とO&M契約の要点
太陽光発電設備の建設・運営には、EPC(Engineering, Procurement, Construction、設計・調達・建設)契約とO&M(Operation & Maintenance、運営・保守)契約が必要です。
EPC契約
EPC契約は、設備の設計から調達、建設までを一括して請け負う契約です。
主な契約条項
- 支払方式: 総額固定(ランプサム)方式が一般的
- 完工期限: 遅延の場合の違約金条項
- 性能保証:
- 太陽光パネル: 25年間の出力保証(例: 25年後80%以上)
- パワーコンディショナー: 10年間の製品保証
- 瑕疵担保期間: 引渡後2年間が一般的
- 不可抗力条項: 天災等による遅延・損害の扱い
- 保証金: 契約保証金、瑕疵担保保証金
実務上、EPC契約では完工期限の遅延リスクが重要です。遅延により、予定していた年度のFIT価格が適用されなくなる可能性があるため、違約金条項を適切に設定することが必要です。
また、性能保証の内容(保証値、測定方法、補償方法)を契約書に明確に規定することが重要です。
O&M契約
O&M契約は、発電設備の運営・保守を委託する契約です。
主な契約内容
- 契約期間: 通常5~20年間
- 業務範囲:
- 定期点検(4年に1回以上)
- 日常点検
- 清掃(パネル洗浄等)
- 除草・除雪
- 監視(遠隔監視システム)
- 故障対応
- 費用:
- 低圧: 年間10万円~15万円程度
- 高圧: 年間50万円~200万円程度
- 保険: 施設賠償責任保険の加入義務
O&M契約は、発電事業の安定運営に不可欠です。特に、定期点検義務は事業計画認定の要件であり、履行しない場合は認定取消のリスクがあります。
セカンダリー取引では、既存のO&M契約の内容(業務範囲、費用、契約期間等)を確認し、必要に応じて契約承継または新規契約締結を行います。
セカンダリー市場の法務実務
セカンダリー市場の概況
低圧太陽光のセカンダリー市場は、近年急速に拡大しています。
市場の特徴
- 市場規模: 年間数百億円規模との民間調査機関推計
- 取引主体: 個人投資家、中小企業、投資ファンド、機関投資家まで多様化
- 取引価格: 残存FIT期間、発電実績、立地等により大きく異なる
セカンダリー市場が拡大している背景には、以下の要因があると考えられます。
- FIT制度の開始から10年以上が経過し、売却を検討する事業者が増加
- 投資家の再エネ投資に対する理解が深まり、買い手市場が成熟
- 低金利環境下で、安定収入が見込める再エネ投資への需要が増加
一方で、2024年11月から交付金停止措置が開始されたことで、法令遵守状況の確認がセカンダリー取引において極めて重要になりました。
デューデリジェンス(DD)の実務
セカンダリー取引において、DDは買主にとって最も重要なプロセスです。特に交付金停止措置の導入により、法務DDの重要性が著しく高まりました。
法務DD
法務DDでは、以下の事項を確認します。
優先確認事項
- FIT/FIP認定の有効性:
- 認定番号の確認
- 認定内容と実態の整合性
- 変更認定の要否確認
- 農地転用許可の取得状況:
- 許可書の原本確認
- 許可条件の遵守状況
- 営農型の場合、営農継続状況
- 林地開発許可の取得状況:
- 許可書の原本確認
- 許可条件の遵守状況
- 自治体条例の遵守状況:
- 届出・許可の取得状況
- 住民説明会の実施状況
- 離隔距離等の規制遵守
- 土地権原の確認:
- 登記簿謄本の確認
- 土地契約書の内容確認
- 賃料支払状況の確認
- 近隣住民との紛争の有無:
- 苦情・クレームの有無
- 訴訟・調停の有無
- 住民説明の記録
交付金停止措置の対象となる法令違反が発見された場合、取引中止または価格減額交渉の材料となります。
また、軽微な違反であっても、是正に要する期間とコストを考慮する必要があります。
技術DD
技術DDでは、設備の状態と発電実績を確認します。
確認事項
- 発電実績:
- 過去3~5年間の月次発電量
- 想定発電量との乖離分析
- 出力制御の実績
- 設備の劣化状況:
- 太陽光パネルの破損・汚れ
- パワーコンディショナーの動作状況
- 架台の腐食・変形
- 電気配線の劣化
- O&M契約の履行状況:
- 定期点検の実施記録
- 清掃・除草の実施状況
- 故障対応の記録
- 保険加入状況:
- 施設賠償責任保険の加入
- 動産総合保険の加入
- 利益保険の加入
技術DDでは、専門家(技術コンサルタント)の協力を得ることが一般的です。
特に、発電実績の分析は、将来の収益予測に直結するため、慎重な検討が必要です。
財務DD
財務DDでは、事業の収益性とコスト構造を確認します。
確認事項
- 売電収入の実績:
- 月次売電収入の推移
- 買取価格の確認
- 出力制御による減収
- 運営コストの妥当性:
- O&M費用
- 土地賃料
- 保険料
- 公租公課(固定資産税等)
- 残存FIT期間:
- 残存期間の確認
- FIT終了後の事業計画
財務DDの結果は、取引価格の算定に直接影響します。
特に、運営コストが想定より高い場合や、発電実績が想定を下回っている場合は、価格減額交渉の材料となります。
スキーム選択
セカンダリー取引には、主に以下の3つのスキームがあります。
| スキーム | メリット | デメリット | 適用場面 |
|---|---|---|---|
| 事業譲渡 | 資産・負債を選別可能 | 契約承継手続が煩雑、許認可の再取得が必要な場合あり | 特定の発電所のみを譲渡する場合 |
| 株式譲渡 | 手続が比較的簡便、許認可の承継不要 | 簿外債務リスクあり | 発電事業のみを行うSPCの譲渡 |
| 資産売却 | 単純明快 | FIT認定の変更手続が必要 | 小規模案件 |
事業譲渡の特徴
事業譲渡では、譲渡する資産・負債を個別に特定します。
そのため、不要な資産や簿外債務を引き継がないメリットがありますが、契約承継手続(EPC、O&M、土地契約等)が必要となり、手続が煩雑です。
株式譲渡の特徴
株式譲渡では、発電事業を行う会社の株式を譲渡します。許認可や契約がそのまま承継されるため、手続が比較的簡便ですが、DDで発見できなかった簿外債務を引き継ぐリスクがあります。
そのため、株式譲渡では表明保証条項と補償条項が特に重要になります。
資産売却の特徴
資産売却は、発電設備と土地利用権を個別に売買する最もシンプルな形態です。
ただし、FIT認定の事業者変更手続が必要となります。
売買契約の重要条項
セカンダリー取引の売買契約では、以下の条項が特に重要です。
表明保証条項(Representations and Warranties)
売主が買主に対して、一定の事実が真実かつ正確であることを表明し、保証する条項です。
典型的な表明保証事項
- FIT認定の有効性:
- FIT認定が有効に存在し、取消・停止されていないこと
- 認定内容と実態が整合していること
- 法令遵守:
- 農地法、森林法、自治体条例等を遵守していること
- 交付金停止措置の対象となる違反がないこと
- 紛争不存在:
- 近隣住民、地権者、行政機関との紛争がないこと
- 訴訟・調停・仲裁が係属していないこと
- 契約の有効性:
- 土地契約、EPC契約、O&M契約が有効に存在すること
- 契約違反がないこと
- 設備の状態:
- 設備が正常に稼働していること
- 重大な瑕疵がないこと
補償条項(Indemnity)
表明保証違反や特定のリスクが顕在化した場合に、売主が買主に対して補償を行う条項です。
補償の対象
- 交付金停止リスク: 法令違反が判明し、交付金が停止された場合の逸失利益
- 許認可の瑕疵: 農地転用許可等に瑕疵があり、是正に費用を要した場合
- 簿外債務: DDで発見できなかった債務が判明した場合
- 訴訟リスク: 近隣住民等との紛争が顕在化した場合
補償の上限
- 上限額: 売買代金の10~30%程度が一般的
- 期間: クロージング後1~3年程度
補償条項の設計は、取引交渉の最も重要な論点の一つです。
売主はリスクを限定したい一方、買主は十分な補償を求めるため、両者の利害調整が必要となります。
前提条件(Conditions Precedent)
クロージング(取引実行)の前提となる条件を定める条項です。
典型的な前提条件
- DD結果の満足: 重大な問題が発見されないこと
- 許認可の承継: 必要な許認可が適法に承継されること
- 第三者の同意取得: 土地所有者、金融機関等の同意取得
- 契約承継の完了: EPC、O&M等の契約承継手続の完了
前提条件が成就しない場合、買主は取引を中止できます。
クロージング後義務
クロージング後に売主・買主が履行すべき義務を定める条項です。
典型的なクロージング後義務
- 契約承継手続: EPC、O&M、土地契約等の名義変更
- FIT認定の変更届出: 事業者変更の届出(資源エネルギー庁への届出)
- 引継ぎ: 設備の引渡し、書類の引渡し、業務の引継ぎ
- 協力義務: 売主は買主の事業運営に必要な範囲で協力する義務
価格算定と評価手法
セカンダリー取引の価格算定では、DCF法(Discounted Cash Flow、割引キャッシュフロー法)が一般的に用いられます。
DCF法の基本的な考え方
将来のキャッシュフロー(売電収入-運営コスト)を現在価値に割り引いて、事業価値を算定します。
価格算定の考慮要素
- 残存FIT期間: 残存期間が長いほど、事業価値は高くなる
- 買取価格: 買取価格が高いほど、事業価値は高くなる
- 発電実績: 実績が想定を上回っていれば、事業価値は高くなる
- 出力制御リスク: 出力制御が多い地域では、事業価値は低下する
- 運営コスト: O&M費用、土地賃料、保険料、公租公課等
- 交付金停止リスク: 法令違反のリスクがある場合、事業価値は大きく低下する
2024年11月以降、交付金停止リスクは価格算定において極めて重要な要素となりました。
DDで法令違反の可能性が示唆された場合、そのリスクを定量化し、価格に反映させる必要があります。
また、FIT終了後の事業継続(自家消費、相対PPA等)の可能性も、価格算定に影響を与える場合があります。
新ビジネスモデルと今後の展望
低圧VPPへの参入
2026年度から低圧リソースの需給調整市場参入が可能になることは、低圧太陽光事業にとって大きなビジネスチャンスです。
VPPビジネスの概要
VPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)とは、分散する小規模な発電設備や蓄電池をIoT技術で束ね、遠隔制御により、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組みです。
低圧VPPの事業モデル
- 蓄電池併設: 低圧太陽光に蓄電池を併設
- アグリゲーター契約: VPP事業者(アグリゲーター)と契約
- 需給調整市場への参加: アグリゲーター経由で需給調整市場に参加
- 収益: FIT売電収入+需給調整収入
蓄電池の費用
50kWh規模の蓄電池で750万円~1,000万円程度の初期投資が必要です。
ただし、蓄電池の価格は年々低下しており、今後さらなる低価格化が期待されます。
法的論点
- アグリゲーター契約: 収益配分、制御権限、データ利用等の条項
- 系統連系の変更: 蓄電池追加に伴う系統連系の変更手続
- FIT認定の変更: 蓄電池追加に伴う認定変更の要否
VPPビジネスは、まだ制度開始前であり、詳細が明らかになっていない部分もありますが、低圧太陽光事業の新たな収益源として期待されています。
(出典: 経済産業省「需給調整市場における分散型リソースの更なる活用等について」)
低圧バルク取引
複数の低圧案件をポートフォリオとして一括で機関投資家に売却する「バルク取引」が増加しています。
バルク取引のメリット
- 分散投資: 複数案件に分散することで、リスクを低減
- スケールメリット: 大口取引により、取引コストを削減
- 機関投資家へのアクセス: 大口案件として、機関投資家の投資基準を満たす
バルク取引の課題
- DD工数: 案件数が多いため、DD工数が増大
- 管理の複雑化: 複数の立地、複数の契約先を管理する必要がある
バルク取引では、標準化されたDDプロセスと、効率的な管理体制が求められます。
FIT終了後の自家消費・相対PPA
FIT期間終了後の出口戦略として、自家消費への転換や企業とのPPA(Power Purchase Agreement、電力購入契約)が注目されています。
自家消費モデル
- 対象: 工場、商業施設等に隣接する発電所
- メリット: 電力購入費の削減、環境価値の活用
- 課題: 消費量と発電量のマッチング
相対PPAモデル
- 対象: 企業と直接契約し、再エネ電力を供給
- メリット: FIT終了後も安定収入を確保
- 課題: 契約交渉、需給管理
FIT終了後の事業継続は、低圧太陽光の長期的な投資価値を高める要素となります。セカンダリー取引においても、FIT終了後の事業計画は価格算定に影響を与える可能性があります。
トラブル事例と予防策
典型的トラブル事例
低圧太陽光事業では、以下のようなトラブルが発生しています。
農地転用許可未取得
事例: 農地転用許可を得ずに発電設備を設置したケース
結果:
- 農地法違反として交付金停止
- 行政指導(是正命令)
- 刑事罰の可能性(3年以下の懲役または300万円以下の罰金)
このケースは、2024年11月以降、交付金停止措置の対象となり、事業者にとって極めて深刻な事態となります。
営農放棄
事例: 営農型太陽光(ソーラーシェアリング)で営農を放棄したケース
結果:
- 一時転用許可の取消
- 農地法違反として交付金停止
営農型太陽光は、農業と発電を両立させることが前提であり、営農を放棄した場合は許可取消の対象となります。
自治体条例違反
事例: 住民説明会を開催せず設置したケース
結果:
- 条例違反として交付金停止
- 住民との紛争激化
- 操業停止リスク
自治体条例は地域によって内容が異なるため、開発前に必ず確認が必要です。
地主との紛争
事例: 賃料の未払い、原状回復費用の負担を巡る紛争
結果:
- 土地契約の解除
- 土地使用権の喪失
- 設備撤去を余儀なくされる
土地契約は事業の根幹であり、地主との良好な関係維持が不可欠です。
近隣トラブル
事例: 反射光、騒音、景観問題を巡る近隣住民との紛争
結果:
- 住民訴訟(差止請求、損害賠償請求)
- 操業停止リスク
- 事業価値の低下
近隣トラブルは、事業運営に深刻な影響を与える可能性があり、開発段階での住民説明が重要です。
予防策とリスク管理
上記のようなトラブルを予防するために、以下の対策が考えられます。
法令調査の徹底
対策:
- 開発予定地の法的規制を事前に調査
- 農地法、森林法、自治体条例等の適用の有無を確認
- 必要な許認可の取得時期と手続を把握
自治体窓口への事前相談
対策:
- 開発前に自治体の担当窓口に相談
- 許可取得の見込みを確認
- 標準処理期間を把握し、スケジュールに反映
住民説明の実施と記録保存
対策:
- 近隣住民への事前説明会を開催
- 説明内容を記録し、議事録を保存
- 住民の懸念事項に誠実に対応
住民説明は、自治体条例で義務付けられている場合が多いだけでなく、近隣トラブルの予防にも有効です。
デューデリジェンスの徹底
対策:
- セカンダリー取引では、法務DD・技術DD・財務DDを徹底
- 交付金停止リスクを重点的に確認
- 専門家(弁護士、技術コンサルタント)を活用
DDで発見された問題は、取引中止または価格減額交渉の材料となります。
適切な表明保証・補償条項の設計
対策:
- 売買契約において、交付金停止リスクを補償対象とする
- 補償の上限額と期間を明確に規定
- 売主・買主双方のリスク負担を適切に配分
補償条項は、リスクの顕在化に備えた最後の砦です。
まとめ
低圧太陽光発電(10kW以上50kW未満)は、全FIT認定の件数ベースで8割以上を占め、セカンダリー市場も年間数百億円規模との推計がある重要な市場です。
2024年11月から開始された交付金停止措置により、法令遵守の重要性は一層高まり、弁護士による法務デューデリジェンスの役割が極めて重要になっていると考えられます。
2025年度のFIT認定申請期限は2025年10月10日17:00、買取価格は10円/kWhです。
また、2026年度からは低圧リソースの需給調整市場(VPP)参入が可能になり、新たなビジネス機会が広がります。
開発段階では、農地法・森林法・自治体条例等の関係法令の遵守が必須であり、セカンダリー取引では法務DD・表明保証・補償条項の設計が重要です。
特に交付金停止リスクを適切に評価し、売買契約に反映させる必要があります。
低圧と高圧・特別高圧では、制度上の扱いが大きく異なります。
低圧は比較的参入しやすい一方、高圧・特別高圧は大規模投資が必要で機関投資家向けです。
今後は低圧VPPや初期投資支援スキームなど、新たな制度を活用したビジネスモデルが期待されます。
当事務所では、再生可能エネルギー・ESG分野に精通した弁護士が、開発からセカンダリー取引、VPP参入まで、包括的な法務サポートを提供しています。
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