[コラム] メガソーラー規制は「屋上屋」になっていないか – 日弁連の再エネ調整モデル条例を実務目線で読む

✅ ざっくり言うと

  • 📄 日弁連は2026年7月、メガソーラー・大規模風力を対象とする自治体向けの「モデル条例」を公表しました(許可・届出制、ゾーニング、撤去費用の保証金、罰則など9項目)。
  • 🏛 もっとも、国はすでに環境アセスの対象拡大やリサイクル法、電気事業法改正など全国一律の制度整備を急いでおり、自治体規制をさらに重ねると「屋上屋」になりかねないと考えられます。
  • ⚖ 許可制・保証金・罰則は、手続負担の増加と予見可能性の低下を招きやすく、脱炭素に必要な再エネ投資を冷やすおそれがあると思われます。
  • 🔎 地域環境・防災への配慮は当然の前提です。もっとも、もともと事業者側にいて、いまも再エネを推進したい立場からは、手段の比例性と国の制度との整合を丁寧に見極めなければ、かえって普及を損なうと考えています。
目次

はじめに

今回は、日本弁護士連合会(以下「日弁連」)が公表した「再生可能エネルギー事業と地域との調整のためのモデル条例」について、事業者側の目線から検討していきます。

このモデル条例は、メガソーラーや大規模風力発電をめぐる地域の懸念に、自治体が条例で対応するためのひな型として示されたものです(日弁連モデル条例)。

はじめに、私自身の立場を明らかにしておきます。
私は、もともと再生可能エネルギー事業者の側で実務に身を置いてきた人間であり、いまも弁護士として、再エネの普及をむしろ後押ししたいと考えている立場です。
このため、本稿は、「再エネ規制をもっと強めるべきだ」という評価ではなく、「再エネを健全に普及させたいからこそ、過剰な規制の重ね方には慎重であってほしい」という、事業者寄りの問題意識から書いています。

もちろん、地域の自然環境や防災、景観への配慮という問題意識それ自体は、私も強く共有しています。
不適切な一部の案件が地域の信頼を損ね、結果として真面目な事業者を含む再エネ全体の逆風になってきたことは、事業者の側にいたからこそ、痛いほど分かるつもりです。
そのうえで、再エネ案件の実務に関与してきた立場からは、今回のモデル条例には、規制の「重ね方」と「タイミング」について、いくつか気になる点があります。

本稿では、モデル条例の内容を正確に確認したうえで、事業者目線で、実務上の論点を整理してみたいと思います。

モデル条例の概要

はじめに、このモデル条例が何を提案しているのかを確認します。

対象は、出力1メガワット(MW)以上のいわゆるメガソーラーと、大規模風力発電所です(日弁連モデル条例)。
構成は9つの項目からなり、総則(目的・基本理念・自治体の責務・計画作成)、ゾーニング、許可・届出制度(自治体および住民との事前協議を含む)、撤去費用の保証金制度、報告徴収や罰則等の実効性確保措置、地域振興型事業の促進、再生可能エネルギー審議会などが並びます。
日弁連は、これを各自治体にフルスペックでの導入を求めるものではなく、地域の実情に応じて必要な項目を参考にしてほしい、という位置づけで示しています。

なお、正確を期すために付言すると、このモデル条例は「住民の同意」を事業の要件とするものではありません。
解説は、事前協議について、事業計画が合理的と判断されれば地域住民等が納得しなくても手続は終了しうる、と明記しています。
したがって、本稿の批判も「住民の拒否権を与える制度だ」といった形での批判は行いません(行えません)。

論点1 – 国の制度整備が急ピッチで進む中での「二重化」

第一の違和感は、タイミングです。

いま、国は再エネの環境・安全面の制度整備を、かなりの速度で進めています。
環境影響評価法(Environmental Impact Assessment Act)の対象となる太陽光発電の規模要件は、第1種事業を40MWから20MWへ引き下げる方向で見直しが進みました(環境省 報告書(案))。
2025年12月には、政府が「大規模太陽光発電事業(メガソーラー)に関する対策パッケージ」を決定し、森林法の林地開発許可の規律強化なども含む省庁横断の措置が打ち出されています(環境省 参考資料集)。
太陽電池廃棄物の再資源化等の推進に関する法律(令和8年法律第33号)も2026年に成立し、パネルの再資源化・撤去の枠組みが整えられました(参議院 議案情報)。
さらに、2026年7月に成立した改正電気事業法では、太陽電池発電設備の支持物(架台・基礎)について、第三者機関による工事前の技術基準適合性確認の仕組みが導入されました(経済産業省、私のコラムもご覧ください。)。

つまり、盛土や斜面の構造安全性、環境影響評価、パネルの撤去・リサイクル、森林開発の規律といった、モデル条例が扱おうとする論点の多くは、すでに全国一律の制度として手当てが進んでいるのです。
こうした状況で、各自治体にさらに許可制・ゾーニング・保証金・罰則を条例で重ねることを促すと、国の制度と自治体条例が同じ対象を二重・三重に規律することになりかねません。
規制は、重ねれば重ねるほど良いというものではないと考えられます。

論点2 – 許可制・保証金・罰則の「重さ」と予見可能性

第二に、手段の重さです。

モデル条例は、届出にとどまらず、許可制や事前協議、撤去費用の保証金、報告徴収、罰則といった強い手段を組み合わせています。
許可制は、届出制に比べて自治体の裁量が大きく、審査の運用次第で、適法な計画であっても着工時期が読みにくくなります。
再エネ事業は、系統接続、EPC(設計・調達・建設、Engineering, Procurement and Construction)契約、ファイナンスが、着工・運転開始の見通しを前提に組み立てられます。
その入口に、自治体ごとに内容の異なる許可・協議・保証金の手続が加わると、予見可能性が下がり、投資判断やファイナンスの前提が揺らぎやすくなると思われます。
撤去費用の保証金についても、国はすでに再エネ特措法(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法)に基づくFIT・FIP(Feed-in Tariff/Feed-in Premium)の廃棄等費用積立制度を設けており、二重の負担とならないかという整理が必要だと考えられます。

論点3 – 「メガソーラー」と言いつつ、射程は中小にも及びうる

第三に、対象範囲の広がりです。

モデル条例の趣旨は、1MW以上のメガソーラーと大規模風力を主たる標的として書かれています。
ところが、適用除外を定める条項の解説では、除外されるのは出力10キロワット(kW)未満の太陽光などとされており、10kW以上の設備や、1,000平方メートルを超える面積の事業は、自治体の設計次第で規制の射程に入り得ます。
「メガソーラー対策」という看板と、実際に条例が届きうる範囲との間には、相応の開きがあるということです。
国の政策は、屋根置きや自家消費型の中小規模太陽光の普及をむしろ後押しする方向にあります。
自治体が閾値の設計を誤れば、本来促進すべき中小規模の導入まで手続コストで抑制してしまうおそれがある点は、実務上の注意点だと考えています。

論点4 – 自治体条例のパッチワーク化

第四に、全国的な整合性です。

太陽光発電をめぐっては、すでに多くの都道府県・市町村が独自の条例を設けています(環境省 資料1(自治体条例対象規模一覧))。
規制の対象規模や手続は自治体ごとにばらつきがあり、全国で事業を検討する事業者にとっては、すでに「条例のパッチワーク」への対応が実務課題になっています。
そこへ共通のモデルが広く配布されれば、底上げが期待できる一方で、各自治体が部分的に取捨選択して採用する結果、かえって地域ごとの差異が複雑化する可能性もあります。
環境アセスの対象規模のように、全国的見地から国が統一的に設計すべき事項と、地域の実情に応じて自治体が担うべき事項の切り分けを、あらためて意識する必要があると考えられます。

公平に見て – モデル条例の意義と、本当の論点

ここまで批判的に述べてきましたが、公平を期すために、モデル条例の意義にも(一応)触れます。

盛土崩落や土砂流出、景観・生活環境への影響など、一部の不適切な案件が地域の信頼を損ねてきたことは事実です。
悪質・不適切な案件に地域が実効的に対応できる手立てを整えること自体は、むしろ健全な再エネ普及の前提だと考えられます。
事業者の側にいた経験からも、地域の信頼を失う案件が一件出るたびに、丁寧に地域と向き合ってきた事業者まで逆風にさらされる構図は、繰り返し見てきました。
だからこそ、私は規制そのものに反対しているのではなく、再エネを本気で広げたいからこそ、規制の「効かせ方」にこだわりたいと考えています。
モデル条例には強制力はなく、採否は各自治体の自主的な判断に委ねられており、ゼロから条例を起草する自治体の負担を軽くする実務的な価値もあります。
そのうえで、本当の論点は「規制するか、しないか」ではなく、「手段が目的に比例しているか」と「国の制度と重複・矛盾していないか」にあると考えています。
同じ問題を国の制度がすでに手当てしているのであれば、自治体条例はその隙間を埋める最小限の設計にとどめるのが筋であり、許可制・保証金・罰則をフルスペックに近い形で広げることには、慎重であるべきだと思われます。

実務者への示唆

最後に、事業者側の実務対応です。

第一に、立地自治体の既存条例と、モデル条例を参照した改正の動きを、早い段階で確認しておくことが重要です。

第二に、許可・事前協議・保証金の手続を、系統接続やEPC、ファイナンスの工程表にあらかじめ織り込み、着工時期を逆算しておく必要があります。

第三に、国の制度(環境アセス、リサイクル法、電気事業法上の支持物確認、FIT・FIPの積立)と、自治体条例上の義務が重複する部分を洗い出し、二重対応や過大な負担を避ける整理をしておくことが有効だと考えられます。

まとめ

日弁連のモデル条例は、地域環境と防災への配慮という正当な問題意識に支えられたものであり、その目的自体を否定するものではありません。

しかし、環境アセスの対象拡大、リサイクル法、改正電気事業法、対策パッケージと、国の制度整備が急速に進む局面で、自治体に強い規制の上乗せを広く促すことは、規制の「屋上屋」となり、予見可能性の低下を通じて、脱炭素に必要な再エネ投資を冷やしかねないと考えています。

大切なのは、規制の量ではなく、手段の比例性と、国・自治体の役割分担の整合だと思われます。
再エネ事業に関与する事業者、金融機関、EPC、自治体の方々にとって、いま必要なのは、規制を足し算で重ねることではなく、既存の国の制度を前提に、本当に必要な地域固有の手当てだけを見極める視点だと考えています。
再エネを止めたい立場からではなく、事業者側で汗をかいてきた経験を踏まえ、再エネを本気で広げたい立場だからこそ、規制の質にこそこだわるべきだと考えています。

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