[コラム] 中古太陽光は「値崩れ」するのか – FIT残存期間のDCFでは説明できない価格差はどこから来るのか

✅ ざっくり言うと

  • 📉 中古の低圧太陽光発電所が市場に増えています。価格はFIT残存期間の収入を割り引いて決まるはずなのに、大量売却で値崩れが起きるとされる理由を整理します。
  • 🧮 実勢は表面利回りで値付けされており、残存年数もコストも入っていません。本来あるべきDCFとの乖離が、値動きの幅そのものになっています。
  • 🔻 認定単価で引いたDCFは構造的に高く出ます。調達期間の終了前10年間は、解体等積立金が買取費用から控除されるためです。
  • 🔍 同じ発電量でも価格差を生むのは、事業計画認定と土地の権原の瑕疵です。買主側では、利回りではなく認定・権原・積立の3点から入ることをお勧めします。
目次

はじめに

今回は、中古の太陽光発電所の価格がどのように決まり、なぜ「値崩れ」が起こり得るのかについて、買主側の実務という観点から説明していきます。

このコラムを書こうと考えたきっかけは、2026年9月30日付の日本経済新聞の記事です。
FIT制度の導入から10年を超え、小型の太陽光発電所の中古販売が広がっているという内容で、販売価格は1000万円から2000万円前後、今後の大量売却による値崩れリスクにも触れられています。

読んで最初に引っかかったのは、次の点でした。
太陽光発電所の価格は、基本的にFITの残存期間に得られる収入を割り引いて求めるはずです。 だとすれば、売り物が増えたからといって、なぜ価格が崩れるのかという疑問です。

結論から申し上げると、割引現在価値という考え方が誤っているわけではないという理解です。
むしろ、その考え方が実勢に反映されていないこと、そして割り引くべきキャッシュフロー自体が想定より小さいことが、値崩れの正体だと考えています。

以下では、価格が動く経路を4つに分け、最後に、買主側が案件を見るときの順序を整理します。

実勢は表面利回りで値付けされている

まず押さえておきたいのは、低圧の中古市場で表示されている数字が、割引現在価値の計算結果ではないということです。
先の記事には、売買サイトの掲載例として、宮城県内の物件が1300万円で利回り15%、群馬県の物件が800万円で13%といった表示が紹介されています。
ここでいう利回りは、年間の売電収入を価格で割った表面利回りです。

表面利回りには、FITの残存年数が入っていません。
残り8年の物件と残り15年の物件が、同じ「15%」として並びます。
運転維持費、固定資産税、保険料、パワーコンディショナの更新費、出力制御による減収も入っていません。
撤去費用に至っては、そもそも計算の外にあります。

つまり、この市場で形成されているのは、「何パーセントの表面利回りなら買うか」という相場観です。
相場観は需給と心理で動きますので、原資産のキャッシュフローが変わらなくても価格は動きます。
本来あるべき割引現在価値と、実勢の表面利回りとの間に距離があること自体が、値動きの幅を生んでいると考えられます。

割引率は資産ではなく市場が決める

仮に丁寧に割引計算を組んだとしても、分母である割引率は、買主の要求利回りです。
これは資産の性質ではなく、市場が決めます。

FIT案件の特殊性は、収入が固定されている一方で、金利負担も修繕費もインフレも売電価格に転嫁できない点にあります。
先の記事も、金利上昇とインフレ局面で転嫁ができないことを、売却が増える背景の一つとして挙げています。

同じキャッシュフローでも、要求利回りが1ポイント上がれば、残存10年の物件で価格は数パーセント下がります。
買主の資金調達環境が変わるだけで、売主が何もしなくても価格は動きます。

分子も固定ではない

FITが保証しているのは調達価格であって、手取りではありません。
ここが実務上、最も誤解されやすいところだと感じています。
残存期間の収入を見積もるときに効いてくる要素を、影響の大きい順に4つ挙げてみます。

第一に、解体等積立金の控除です。
資源エネルギー庁が公表する廃棄等費用積立制度の解説によれば、10kW以上の事業用太陽光発電については、原則として源泉徴収的な外部積立てが求められ、買取費用の額から解体等積立金の額を控除する方式で実行されます。
積立期間は、調達期間が終了する日の10年前から終了日までです。
FIT導入から10年を超えた物件、つまり今まさに中古市場に出ている物件は、残存期間の全部又は大部分がこの控除期間に入っています。
買主が実際に受け取るのは、認定単価そのものではなく、積立金を控除した後の金額です。 認定単価で引いた計算は、構造的に高く出ます。

第二に、出力制御です。
エリアによっては無補償の制御が常態化しており、売れるkWh自体が減ります。

第三に、パワーコンディショナの更新です。
更新時期は、まさに中古で取得する残存期間に重なります。

第四に、保険です。
自然災害の増加で引受条件が厳しくなっており、付保できない場合、又は保険料が大きく上がる場合には、そのままキャッシュフローの悪化になります。
先の記事も、保険契約の終了が売却のきっかけになると指摘しています。

FIT終了後に残る価値がほぼ確定していない

割引計算の最大の不確実要素は、20年の調達期間が終わった後の価値です。

先の記事によれば、FIT期間10年を終えた住宅用では、終了後の売電価格が1キロワット時あたりおおむね10円前後で、導入初期の30円から40円台には及びません。
事業用については、卒FIT以降の買取は電力会社次第であるとして、水準が示されていません。

他方で、土地賃貸借契約上の原状回復義務、撤去費用、地権者との関係は残ります。
積立金が撤去費用に足りなければ、FIT終了後に残る価値はマイナスにもなり得ます。
残存期間が短くなるほど、価値全体に占める卒FIT後の価値の比重は上がりますので、卒FIT後の見通しに対する市場の受け止めが変わるだけで、価格が大きく振れる構造になっています。

価格差を生んでいるのは発電量ではなく認定と権原

同じ表面利回りで並んでいる物件でも、中身は同じではありません。
先の記事にも、今後持ち込まれる物件の質が下がる恐れを指摘する関係者の声が紹介されています。
以下の項目は、いずれも割引率で吸収できる性質のものではありません。 該当すれば、価格から大きく引くか、案件から降りるかのどちらかになります。

事業計画認定の変更手続

再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法は、認定を受けた事業計画の変更について、内容ごとに手続を分けています。

同法第10条第1項は、事業の内容及び実施時期、設備の区分等、電線路との接続に関する事項、設備の設置の場所・出力・管理の方法、解体等の方法を変更しようとするときは、変更の認定を受けなければならないと定めています。
軽微な変更については、同条第2項により事前の届出で足ります。
これに対し、申請者の氏名又は名称及び住所、役員の氏名などについては、同条第3項により遅滞なく届け出れば足ります。

中古売買の現場で「名義変更」と一括りにされている作業は、法律上はこの3つの手続に分かれます。
所有者が替わるだけであれば事後の届出で足りますが、実際には管理の方法が変わり、解体等の方法の記載も見直しが必要になる場面が少なくありません。
売買契約の締結前に、どの手続が必要で、いつ完了するのかを確認しておく必要があります。

積立ての懈怠は認定取消事由

同法第15条第1項は、認定の取消し事由を列挙しています。
その第4号は、積立対象区分等に該当する設備について、認定事業者が所定の積立てをしていないときを取消し事由としています。

買主から見れば、これは価格の問題ではなく、案件が存続するかどうかの問題です。
売主の積立状況を確認せずに取得すると、取消しリスクを引き継ぐことになりますので、デューデリジェンスの初期段階で確認すべき項目だと考えています。

土地の権原と関係法令

資源エネルギー庁の事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)は、土地について所有権その他の使用の権原を有していることを求めています。
また、農業振興地域の整備に関する法律に基づく農用地区域からの除外手続、農地法に基づく農地転用の許可の取得又は届出、森林法に基づく林地開発許可の取得についても、それぞれ記載があります。

賃借の場合には、権原の有無に加えて、対抗要件の具備、賃貸人の変更・相続、期間満了と更新条件、原状回復義務の範囲まで確認する必要があります。
発電所は動かせませんので、土地の問題には代替手段がありません。

同ガイドラインは、標識の掲示について、発電設備又はこれを囲う柵塀等の外側から見えやすい位置に取り付けることを求め、柵塀等についても、構内に容易に立ち入ることができないような高さ及び構造とすることを求めています。
これらは小さな事項に見えますが、未対応であれば是正の対象になり、近隣との関係にも影響します。

その他に確認したい事項

上記に加えて、次の点も早い段階で潰しておくべきと考えます。

  • 系統連系に関する電力会社との契約及び工事費負担金の精算状況と、その承継方法。
  • いわゆる分割案件に該当しないか、及び過去の指導・報告徴収の有無。
  • 盛土規制その他の土地に関する規制への適合状況。
  • 自治体の条例、近隣住民との協定の有無と、その承継の要否。
  • 完成図書、保守点検記録、発電実績データの引継ぎの可否。

買主側が案件を見る順序

以上を踏まえると、買主側の検討順序は、表面利回りから入るべきではないと考えています。

最初に見るべきは、事業計画認定の内容と現況が一致しているか、変更手続が必要か、積立てが行われているかです。
ここで問題が見つかれば、価格の話に進む意味がありません。 次に、土地の権原と関係法令の遵守状況を確認します。 ここも二者択一のリスクです。

その次に、ようやく数字の検討に進みます。
認定単価ではなく積立金控除後の手取りを用い、残存年数を明示し、運転維持費、固定資産税、保険料、更新費、出力制御の見込みを引いた純額で計算します。
卒FIT後の価値については、撤去義務の帰属と積立金の充足度を確認したうえで、保守的に置きます。

この順序で組み立てた数字は、売買サイトの表面利回りより低く出ることがほとんどのはずです。
しかし、値崩れが語られる局面では、この順序で交渉できる買主のほうが、結果として有利な条件を引き出せると考えています。

まとめ

中古太陽光の価格をFIT残存期間のDCFで捉える考え方は、あるべき値付けとしては正しいと考えます。
報道されている値崩れリスクは、その方法が誤っているという話ではありません。

第一に、実勢が表面利回りという粗い指標で動いており、残存年数もコストも織り込まれていないことです。
第二に、分母である要求利回りが金利で動き、分子も解体等積立金の控除、出力制御、更新費、保険料で目減りすることです。
第三に、卒FIT後の価値が未確定であり、供給が増えるほど案件の質のばらつきが拡大することです。

そして、同じ発電量の物件の間に価格差を生んでいるのは、発電の巧拙ではなく、事業計画認定と土地の権原に瑕疵があるかどうかです。
売主側であれば、認定関係書類、権原、許認可、積立状況を整えておくことが、そのまま価格になります。
買主側であれば、利回りではなく認定・権原・積立の3点から入ることが、値崩れ局面での交渉力につながると考えています。

中古太陽光の取得をご検討の方へ

ボーダレス経営法律事務所は、再生可能エネルギー及び蓄電池に関する案件を継続して取り扱っています。

中古太陽光の取得では、発電実績よりも先に、事業計画認定、土地の権原、積立状況の3点を確認することが結論を左右します。
売買契約の条件は、その確認結果を踏まえて設計するものだと考えています。

次のような場面で、ご相談をお受けしています。

  • 取得を検討している物件について、認定と現況の不一致、変更手続の要否を確認したい。
  • 土地の権原、農地転用、林地開発、盛土規制への適合状況を法務の観点から点検したい。
  • 解体等積立金の積立状況と、撤去義務の帰属を整理したい。
  • 売買契約において、表明保証、価格調整、認定取消しリスクの分配を設計したい。
  • 複数物件をまとめて取得するにあたり、デューデリジェンスの範囲と優先順位を決めたい。

初回のご相談では、事業計画認定の通知書、土地に関する契約書、直近の発電実績をお示しいただけると、論点の整理が早く進みます。
ご相談は以下のお問い合わせフォームからお願いします。

※本稿は2026年9月30日時点で公表されている法令及び資源エネルギー庁の資料に基づく一般的な整理です。
個別の案件については、最新の資料により再確認する必要があります。

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