[コラム] インドネシアの森林炭素クレジットとJCM – 2026年林業大臣規則第6号と日本の制度から読む国外移転の手続

✅ ざっくり言うと

  • 🌳 インドネシアは2026年4月、森林分野の炭素取引の手続を定める林業大臣規則2026年第6号を公布し、2023年の旧規則を廃止しました。
  • 🔖 炭素ユニットには、国内の排出削減証明書と、Verraなどの国際的な基準で発行されるものの2つのルートがあり、他国のNDC(国が決定する貢献)に使うために国外へ移す場合は、条文上はルートを問わずオーソライゼーションと相当調整が必要になると読めます。
  • 🇯🇵 経済産業省の資料では、日本の排出量取引制度で排出実績量に反映できるクレジットとしてJ-クレジットとJCM(二国間クレジット制度)のクレジットが挙げられており、日本とインドネシアは2024年にJCMとインドネシアの認証制度の相互承認取決めに署名しています。
  • 📝 インドネシアの新しい規則はJCMを名指ししておらず、条文上の正面からの衝突は見当たりませんが、相互承認取決めの根拠規定、取決めの見直しの期限及び量の決め方には確認が必要な点が残っていると考えています。
目次

はじめに

今回は、インドネシアの林業大臣規則2026年第6号(Peraturan Menteri Kehutanan Nomor 6 Tahun 2026)を取り上げ、森林分野の炭素クレジットを国外に移す場合の手続と、日本の制度、特に二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism、JCM)との関係について説明していきます。
同じインドネシアの制度をマレーシアの制度と比べた内容は、マレーシア法人のサイトのコラムで説明しています。

インドネシアでは炭素取引の制度が短い期間に何度も見直されており、「どのクレジットを、どの手続で国外に移せるのか」が分かりにくいと感じている方も多いのではないかと思います。
また、日本企業から見ると、インドネシアの森林クレジットを日本の制度で使えるのか、JCMとインドネシアの新しい規則が矛盾しないのかという点も気になるところです。

本稿では、林業大臣規則の原文、その上位法である大統領令2025年第110号、同じ年に定められた環境大臣規則2026年第10号、及び日本側の資料を読み合わせて、手続の流れと日本の制度との接点を整理します。
なお、本稿はインドネシアの法令の条文を日本の実務の視点から整理したものであり、個別の案件では現地の弁護士による確認が必要です。

インドネシアの規則の位置づけ

林業大臣規則2026年第6号の正式名称は、「森林分野における温室効果ガス排出のオフセットを通じた炭素取引の手続に関する林業大臣規則」です。
林業省の法令データベースで公開されている林業大臣規則の原文によると、全26頁、全65条で、2026年4月6日に制定され、同年4月13日に公布されました(2026年官報第238号)。
第65条により、公布の日から施行されています。

前文によると、この規則は、大統領令2025年第110号(炭素の経済価値の手段の実施と国の温室効果ガス排出の管理に関する大統領令)の第64条、第68条第4項、第76条第4項、第86条及び第94条第6項を実施するために定められました。
大統領令は、インドネシアの法令データベースによると2025年10月10日に制定及び公布されています。
また、林業大臣規則の第64条により、2023年の環境林業大臣規則第7号(森林分野の炭素取引の手続)は廃止されています。

炭素ユニットの登録については、別に環境大臣規則2026年第10号(炭素ユニット登録システムに関する規則)が定められています。
この規則は、2026年7月2日に制定され、7月6日に公布及び施行されました(2026年官報第449号)。
炭素ユニット登録システムは、インドネシア語でSistem Registri Unit Karbon(SRUK)といい、国外への移転に必要なオーソライゼーションの手続は、主にこちらの規則に定められています。

取引できる者と対象区域

林業大臣規則第5条によると、炭素取引を行うことができるのは、事業者、林業大臣及び州知事です。
第6条第1項は、事業者として次の5つを挙げています。

  • 森林利用事業許可(Perizinan Berusaha Pemanfaatan Hutan、PBPH。英訳すればForest Utilization Business Permit)の保有者及び管理権の保有者
  • 社会林業の管理承認の保有者
  • 慣習林の指定を受けた慣習法共同体
  • 権利林の登録保有者
  • 炭素の環境サービスの利用事業許可(Perizinan Berusaha Pemanfaatan Jasa Lingkungan Karbon、PB-PJL Karbon。英訳すればCarbon Environmental Service Utilization Business Permit)の保有者

このうち、社会林業の管理承認の保有者、慣習法共同体及び権利林の登録保有者は、登録されたパートナー又は支援者の同伴を受ける必要があります(第6条第2項)。
また、第8条によると、森林利用事業許可の保有者などが他の者と協力して取引を行う場合でも、炭素取引の責任者は許可の保有者のままです。
外国企業が投資家又は購入者として関わる場合でも、取引の主体はあくまで許可の保有者であるという構造を押さえておく必要があります。

対象となる区域も限定されており、第9条第1項によると、生産林及び保護林では、すでに事業許可、管理承認又は管理権が設定された区域に限られます。

炭素ユニットの2つのルート

林業大臣規則第10条によると、炭素取引を行うには炭素ユニットを保有している必要があり、炭素ユニットには次の2種類があります。

  • 国内の排出削減証明書(Sertifikat Pengurangan Emisi GRK、SPE GRK。英語ではGHG Emission Reduction Certificate)。林業大臣の推薦に基づき、環境を所管する大臣が発行します。
  • 国際的な基準で発行されるユニット(non-SPE GRK)。林業大臣の承認に基づき、国際的な基準の発行機関が発行します。

第1条第12号も、炭素ユニットには国内の認証、国際的な認証又は排出枠によるものが含まれると定義しています。

計画書の記載事項

いずれのルートでも、まず計画書を登録する必要があります。
国内ルートの計画書は、気候変動緩和行動の計画文書(Dokumen Rancangan Aksi Mitigasi Perubahan Iklim、DRAM)と呼ばれます。
第12条は、DRAMに排出削減の計画、方法論、環境影響の分析、持続可能な開発への影響の分析、住民協議などを記載することを求め、補足資料として次のものを挙げています。

  • 追加性(Additionality)の説明
  • 住民の参加計画
  • 住民と合意した炭素の利益配分計画
  • 生物多様性と反転リスクの管理計画
  • 自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(Padiatapa。英語ではFree, Prior and Informed Consent、FPIC)の計画と成果

第21条により、これらの規定は国際的な基準のルートの計画書(Dokumen Perencanaan Proyek、DPP。英語ではProject Design Document)にも準用されます。
つまり、Verraなどの国際的な基準を使う場合でも、住民の同意と利益配分の合意は、インドネシアの規則上の要件として求められます。

審査の期間

計画書の書類の確認は申請の受理から5営業日以内(第14条第3項)、推薦又は承認の審査は書類の完備から14営業日以内(第16条第3項)と定められています。
審査では法令の遵守の履歴と行政処分の有無も確認され、行政処分を受けている申請者は、処分が解除されるまで再申請できません(同条第2項、第5項及び第7項)。
第23条第2項により、これらの規定は国際的な基準のルートにも準用されます。

国際的な基準のルートの承認は6か月で失効する

国際的な基準のルートには、実務上重要な規定があります。
第24条第1項によると、国際的な基準による発行についての林業大臣の承認は、6か月間有効です。
承認を受けた者は、その承認を国際的な基準の機関に提出します(同条第2項)。
発行の手続が長引けば、承認の取り直しが必要になる可能性があるため、検証の完了と発行の時期を見通したうえで申請する必要があると考えられます。

国外への移転とオーソライゼーション・相当調整

どの取引に相当調整が必要か

国外への取引の区分は、上位法の大統領令第68条第1項が定めています。
同項は、オーソライゼーションと相当調整(Corresponding Adjustment。他国にユニットを移した後、自国のNDCの計算から差し引いて二重計上を防ぐ会計上の調整)が必要な取引として、次の3つを挙げています。

  • 国際的に接続された排出量取引
  • パリ協定第6条第2項及び第6条第4項を満たすオフセット取引
  • その他の国際的な義務のための自主的なオフセット取引

一方、他国のNDC又はその他の国際的な義務に使わないオフセット取引は、オーソライゼーションと相当調整を必要としないとされています。
同条第3項は、国外で取引されるユニットは、国内の基準、国連気候変動枠組条約の基準又はその他の国際的な基準に基づいて発行されるとしています。

環境大臣規則第28条も同じ考え方で、ユニットの利用を、インドネシアのNDCの達成、他国のNDC又はその他の国際的な緩和義務の達成、及びその他の緩和目的又は自主的な炭素市場の3つに分けています。
そのうえで、2番目の利用にだけオーソライゼーションと相当調整の記録を求めています。
つまり、相当調整が必要かどうかは、ユニットの種類ではなく、使い道によって決まります。

国際的な基準のユニットも対象になる

林業大臣規則第25条第1項は、「炭素ユニットを保有する事業者」は国外で炭素取引を行うことができるとしています。
同条第2項は、その取引にオーソライゼーションと相当調整が必要な場合には、林業大臣に推薦を申請するとしています。
いずれの条文も、ユニットの種類を限定していません。
環境大臣規則第25条第2項も、国際的な基準で発行されるユニットにオーソライゼーションの状況を記録することを求めています。
したがって、条文上、Verraなどの国際的な基準のユニットも、オーソライゼーションと相当調整の対象になり得ると読めます。

推薦の審査と期間

推薦の申請には、オフセットによる炭素取引の協力に関する書類を添付する必要があります(第25条第3項)。
林業大臣は、取引されるユニットの量とNDCの達成の必要性に基づいて審査します(第26条第1項)。
そのうえで、相当調整の対象とするユニットの量を付して推薦するか、NDCの達成の必要を理由に推薦しないかを決めます(同条第2項)。
推薦を出す場合は、申請の受理から7営業日以内に申請者に伝えられます(同条第3項)。
もっとも、この期限は推薦を出す場合についてのものであり、推薦しない場合の期限は書かれていません。

推薦を受けた事業者は、環境を所管する大臣にオーソライゼーションと相当調整を申請します(第27条第1項)。
環境大臣規則第17条によると、林業大臣などの関係大臣は申請を、全部認める、一部認める、又は却下するのいずれかで審査します。
環境大臣は、関係大臣の推薦を受けてから15営業日以内にオーソライゼーションを与え、相当調整を記録します(同条第3項、第7項から第9項)。

申請の順番には確認が必要

林業大臣規則第25条第1項は「炭素ユニットを保有する事業者」と書いているため、素直に読めば、ユニットが発行された後に推薦を申請することになります。
環境大臣規則第11条第2項の手順の列挙でも、ユニットの発行の後にオーソライゼーションの推薦の申請が置かれています。
一方、同じ環境大臣規則の第18条は、オーソライゼーションの推薦の申請は、ユニットの発行の前でも後でもできるとしています。
条文だけでは関係を判断しにくく、発行前の段階でオーソライゼーションを得られるかどうかは、個別の案件で当局に確認する必要があると考えています。

手続と期間の一覧

ここまでの手続のうち、期間が定められているものと定められていないものを一覧にします。
期間の欄が空白の部分が、契約で手当てを考えるべき部分になると考えています。

段階根拠期間
計画書の書類の確認林業大臣規則第14条第3項申請の受理から5営業日以内
不備の補完林業大臣規則第14条第4項通知から5日以内(営業日とは書かれていない)
推薦又は承認の審査林業大臣規則第16条第3項書類の完備から14営業日以内
国際的な基準のルートの承認の有効期間林業大臣規則第24条第1項6か月
相当調整の推薦(推薦する場合)林業大臣規則第26条第3項申請の受理から7営業日以内
相当調整の推薦(推薦しない場合)林業大臣規則第26条第2項b号定めなし
オーソライゼーション環境大臣規則第17条推薦の受理から15営業日以内
推薦の申請の時期林業大臣規則第25条第1項、環境大臣規則第11条第2項及び第18条発行の前後のいずれかは当局に確認が必要

日本の制度から見たインドネシアのクレジット

JCMは日本のNDCに使うための制度

JCMは、日本とパートナー国が協力して排出削減の対策を実施し、得られた削減量又は吸収量を両国の貢献の度合いに応じて配分する仕組みです。
環境省のJCMの説明によると、日本への移転はパリ協定第6条に沿って行われ、日本はNDCの達成に計上し、相当分はパートナー国の削減量に計上しないとされています。
同じ説明によると、地球温暖化対策計画(2025年2月18日閣議決定)は、官民連携で2030年度までの累積で1億t-CO2程度、2040年度までの累積で2億t-CO2程度の国際的な排出削減・吸収量の確保を目標としています。

JCMは、2024年の地球温暖化対策の推進に関する法律の改正(令和6年法律第56号)により法律上の制度になりました。
改正後の法律は2025年4月1日に施行され、同日に公益財団法人地球環境センターが指定実施機関である日本政府指定JCM実施機構(The Joint Crediting Mechanism Implementation Agency, designated by the Government of Japan、JCMA)に指定されています。

排出量取引制度の資料が挙げるのはJ-クレジットとJCM

日本企業がインドネシアのクレジットを購入する動機の1つとして、2026年度に始まったGX推進法に基づく排出量取引制度が考えられます。
経済産業省のリーフレットによると、この制度の対象は、直近3年度のCO2の直接排出量の平均が10万t-CO2以上の事業者です。

経済産業省の2026年度の説明会資料では、排出実績量に反映できるクレジットとして、J-クレジットとJCMクレジットが挙げられています。
同じ資料は、無効化による控除量は実排出量の10%を上限とするとしています。
この資料には、Verraなどの国際的な基準で発行されたクレジットを排出実績量に反映する方法は書かれていません。

そのため、日本の排出量取引制度での利用を目的とする場合には、インドネシアの森林クレジットであっても、JCMを通じて発行されたものかどうかが重要になると考えられます。
反対に、Verraなどのルートのクレジットは、自主的な目的での利用、又は他国の制度での利用を前提に検討することになると思われます。

日本とインドネシアの相互承認取決め

日本とインドネシアは、2013年8月26日にJCMに関する二国間文書に署名しています。
さらに、環境省の報道発表によると、2024年10月28日、日本の環境省とインドネシアの環境林業省(当時)との間で、JCMとインドネシアの温室効果ガス排出削減認証制度の相互承認取決め(Mutual Recognition Arrangement、MRA)の署名が完了しました。

相互承認取決めの本文の主な内容は次のとおりです。

  • JCMとインドネシアの排出削減認証制度(Indonesian greenhouse gases emission reduction certification、SPEI)を、インドネシアの環境林業大臣規則2022年第21号に定める相互承認協力として認めること(第1項)
  • 両国の登録簿、測定・報告・検証の基準及び認証制度が、パリ協定とそのガイダンスに沿って運用されていることを相互に認めること(第4項)
  • SPEIを用いたJCMの事業のクレジットを、各国政府と事業参加者の貢献を考慮して公平に配分すること(第8項)
  • SPEIを用いたJCMのクレジットについて、オーソライゼーションと相当調整を実施すること(第9項)
  • JCMの事業の情報を、インドネシアの国家気候変動登録システム(Sistem Registri Nasional Pengendalian Perubahan Iklim、SRN PPI)に記録すること(第11項)
  • 森林その他の土地利用(Forestry and Other Land Use、FOLU)分野と廃棄物分野から協議を始めること(第13項)
  • 取決めは2030年12月31日まで継続し、双方の書面の同意で延長できること(第21項)

森林分野から協議を始めるとされている点は、本稿の対象である林業大臣規則との関係で特に重要と考えられます。

JCMとインドネシアの新しい規則は衝突するか

条文上の正面からの衝突は見当たらない

林業大臣規則2026年第6号、環境大臣規則2026年第10号及び大統領令2025年第110号の本文には、JCMを名指しした規定は見当たりませんでした。
一方、環境大臣規則第29条第3項は、他国のNDCに使う利用の根拠として、パリ協定第6条第2項の協力的アプローチと第6条第4項の仕組みを挙げています。
JCMは、日本側でパリ協定第6条第2項の協力的アプローチとして包括的に承認されているため、インドネシア側でもこの枠組みの中で扱われることが想定されていると考えられます。

また、相互承認取決めの第9項は、JCMのクレジットについてオーソライゼーションと相当調整を実施すると定めています。
インドネシアの新しい規則が求めるオーソライゼーションと相当調整は、この取決めの内容と方向が一致しています。
その意味で、制度の設計上は、JCMとインドネシアの新しい規則が接続することが予定されていると考えられます。

確認が必要な点は4つある

もっとも、細部を見ると、次の4つの点は確認が必要と考えています。

1つ目は、相互承認取決めの根拠規定です。
取決めは、インドネシアの環境林業大臣規則2022年第21号に定める相互承認協力として、JCMとSPEIを認めています。
大統領令2025年第110号は、第101条で旧大統領令2021年第98号を廃止しましたが、第100条で、旧大統領令の実施規則は、新しい大統領令に反しない限り、又は置き換えられるまでは効力を持つとしています。
環境林業大臣規則2022年第21号は旧大統領令の下で定められた規則ですが、すでに置き換えられたかどうかは、今回確認した資料からは分かりませんでした。

2つ目は、取決めの見直しの期限です。
大統領令第99条は、この大統領令の施行前にインドネシア政府が合意した炭素の経済価値の分野の国際協定(perjanjian internasional)は、公布から1年以内に調整しなければならないとしています。
大統領令の公布日は2025年10月10日であるため、この期限は2026年10月10日に到来しています。
省庁間の取決めである相互承認取決めがこの「国際協定」に当たるかどうか、また調整が行われたかどうかは、今回確認した公表資料からは分かりませんでした。

3つ目は、インドネシア側の所管です。
取決めの相手方は環境林業省ですが、現在は環境を所管する大臣と林業を所管する大臣が分かれており、林業大臣規則2026年第6号も、林業省について定める2024年の大統領令第175号を根拠の1つに挙げています。
森林分野のJCMの事業では、林業大臣規則による計画書の登録と推薦、及び環境大臣規則によるオーソライゼーションの両方を経ることになると考えられます。
この点は条文からの推論であり、実際の運用は当局に確認する必要があります。

4つ目は、クレジットの量の決め方です。
相互承認取決めの第8項は、各国政府と事業参加者の貢献を考慮した公平な配分を定めています。
一方、林業大臣規則第26条は、林業大臣がNDCの達成の必要性に基づいて推薦の量を絞り、又は推薦しないことを認めています。
JCMの合同委員会で合意した配分と、林業大臣が推薦する量が一致しない場合にどうなるかは、条文からは明らかではありません。

事業者に課される継続的な義務

林業大臣規則は、取引を行う事業者に継続的な義務も課しています。
具体的には、社会、環境及びガバナンスの7項目の保護原則の遵守とその報告(第28条)、独立した審査・検証機関による審査と検証(第41条から第45条)、国の非税収入の納付(第46条)、及び取引の状況、利益配分の実施及び苦情への対応の報告(第54条)が求められます。
購入する側から見ると、これらの義務が履行されているかどうかは、クレジットの信頼性と将来の紛争のリスクに直結するため、売主の表明保証の対象にすることが考えられます。

経過措置と今後の予定

経過措置にも、時期が重要なものがあります。

第61条によると、施行の時点ですでに計画書の審査、事業の実施、検証又は報告の段階にあった事業者、及びすでに炭素ユニットを保有していて取引をしていなかった事業者は、公布から6か月以内に林業大臣に活動を報告する必要がありました。
公布日が2026年4月13日であるため、この期限は2026年10月13日に到来しています。
既存の案件のクレジットを購入する場合には、売主がこの報告を行ったかどうかを確認しておくべきと考えます。

また、第63条は、林業大臣が施行から1年以内に新しい炭素取引のロードマップを定めるとしており、2027年4月13日がその期限になります。

なお、細かい点ですが、第17条第3項は、却下の根拠として第16条第5項b号(書類の不備)を参照していますが、却下の提案を定めているのは同項c号(行政処分中)です。
参照の誤りとみられ、実務上は当局の運用を確認する必要があります。

購入する日本企業が契約で手当てしたいこと

以前、私が関与させていただいたフィリピンの案件で、JCMのクレジットを日本側とフィリピン側でどう配分するか、配分が決まった後にさらに譲渡できるかが議論になったことがあります。
そのときも、クレジットを誰が持ち、どこまで動かせるかは、契約だけでは決まらず、制度の側で先に決まっている部分がありました。
インドネシアの森林クレジットでも同じで、日本とインドネシアの両方の制度でどの範囲の手続が必要かを前提に、契約を組み立てる必要があります。

ここまでの条文と日本の制度を踏まえて、購入する側が売買契約で手当てしておきたい事項を挙げます。

  • 利用目的とルートの特定。日本の排出量取引制度、他国のNDC、自主的な利用のどれに使うのかを決め、日本の排出量取引制度で使う場合にはJCMのルートであることを確認すること
  • 前提条件。林業大臣の承認(国際的な基準のルートでは6か月で失効)、推薦、及び環境大臣のオーソライゼーションの取得を、引渡しの前提条件とすること
  • 量の調整。推薦が申請量の一部にとどまった場合、又はNDCの達成の必要を理由に推薦されなかった場合の数量と価格の調整、及び解除の条件を定めること
  • JCMの配分との整合。JCMの事業では、合同委員会で合意される配分と、林業大臣が推薦する量が食い違った場合の扱いを定めること
  • 期限。推薦しない場合の期限が規則にないことを踏まえ、契約上の期限と、期限を過ぎた場合の扱いを定めること
  • 売主の表明保証。住民の同意と利益配分の合意、保護原則の遵守、行政処分の有無、経過措置による報告の実施を対象とすること
  • 費用負担。国の非税収入の負担者を定めること
  • 情報提供。報告、評価及び苦情への対応に関する売主の協力義務を定めること

特に、「相当調整付き」とだけ書いた契約では、どの区分の取引を想定しているのかが曖昧になります。
取引の目的と、日本側とインドネシア側のそれぞれで必要な手続を、契約の中で具体的に書き分けておくことが重要と考えています。

まとめ

林業大臣規則2026年第6号は、森林分野の炭素ユニットについて、国内の証明書と国際的な基準のユニットの2つのルートを定め、いずれにも林業大臣の推薦又は承認を求めています。
国外への移転について相当調整が必要かどうかは使い道で決まり、条文上は国際的な基準のユニットも対象になり得ます。
ただし、林業大臣は量を絞った推薦、又はNDCの達成の必要を理由に推薦しないことができ、推薦しない場合の期限は定められていません。

経済産業省の資料で日本の排出量取引制度に使えるクレジットとして挙げられているのはJ-クレジットとJCMであるため、この制度での利用を考える日本企業にとっては、JCMのルートが現実的な選択肢になると考えられます。
JCMとインドネシアの新しい規則は、どちらもパリ協定第6条第2項を前提としており、条文上の正面からの衝突は見当たりません。
一方で、相互承認取決めの根拠規定と見直しの期限、所管の変更、及び配分と推薦の量の関係については、確認が必要な点が残っています。

購入する側としては、利用目的とルートを特定し、承認と推薦の取得を前提条件とし、量が減った場合の調整を契約に盛り込むことが、制度の不確実性に備える第一歩になると考えています。

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※本稿は2026年10月20日時点で公表されている日本及びインドネシアの法令及び資料に基づく一般的な整理です。インドネシア法の解釈及び運用は、現地の弁護士及び関係当局に確認する必要があります。

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